『祈りを捧げて』
しんど。
職場のデスクでコーヒーをあおる。
パソコン画面のブルーライトが目に刺さり、眼鏡の下から目頭を押さえた。
彼女の、年内を締めくくる試合が今日から始まる。
彼女の出る試合チケットを全て取ったのに、どうにも仕事の調整がうまくいかなかった。
結局、現地にも行けず、配信を見ることもできていない。
大会2日目を終えたであろう彼女のメッセージで試合結果を知ったくらいだ。
『勝ったよ』
シード枠から危なげなく2回戦を勝利したらしい彼女の文章は、シンプルにまとめられている。
『お疲れさまでした。初戦から見に行けなくて残念です』
彼女のシンプルなメッセージに対して、俺は負担にならないようにお気持ち表明だけしておいた。
仕事の調整に失敗した俺が、直接、彼女の勇姿を目に焼きつけることができるのはよくて大会の最終日。
昨年の不調が嘘のように、今年の彼女は好調だ。
だが、相変わらず危なっかしい彼女が、決勝戦まで勝ち上がることができるのか。
祈るような気持ちで、彼女とのトーク画面の前で手を組んだ。
俺が祈ったところで結果が変わるわけでもない。
それでも、祈らずにはいられなかった。
「がんばれ」
溢れた言葉は頼りなくメッセージアプリの画面に落ちていく。
『決勝で待ってる』
ぽこん、と、勝利しか見ていないギラついた文面が送られてきた。
なんで俺が戦うみたいに……?
暗に、さっさと仕事を終わらせろという意味なのだろう。
俺としても、彼女を待たせるのは本意ではなかった。
『かんばります』
それだけ打って、メッセージアプリを閉じる。
再びパソコンに向き合って、俺はキーボードを叩くのだった。
12/26/2025, 8:38:07 AM