白灰

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8/5/2025, 5:08:25 PM

『泡になりたい』


ドブ色をした池の底から泡が浮かび上がってくる。

私はそれを池のほとりで見下ろしていた。

あゝ 泡になりたい。

泡になれば

泡になれば 個性なんて何もない。

泡になれば 他人との境界がなくなる。

泡になれば 仲間だらけ。

泡になれば 見なくて済む。

泡になれば 人生は一瞬。

あゝ なんて綺麗なんだ。


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『涙の跡』


君の頬を涙が通る。

急いで拭いたようだけど、僕は見てしまった。

君は僕を睨みつける。

だけどその目は、助けを求めていた。

行き詰まっているようだった。

僕は呆気に取られ、言葉をかけることが出来なかった。

君の背中が離れて行く。

だめだった。

このままではダメだった。

だけどあの目は、

放って置かれることを望んでいるようにも見えた。

僕は迷った。

迷って、迷って、

迷っていたのに、

君の腕を掴んでいた。

君は振り返らず、立ち止まっただけだった。

こんな時でも、僕は出来損ないの人間のままだ。

言葉が思い浮かばない。

頭が真っ白になって、

それでも涙の跡が頭をよぎって。

ただ、君のことを助けたかった。

ヒーローになんてなれない。

分かっている。

平均以下の僕だ。

それでも、君のことを1番知っているのが僕だった。

君がどれだけ疑われても、

君がどれだけ嫌われても、

君がどれだけ悪くとも、

僕だけは君の隣に居ようと思えた。

8/4/2025, 7:28:20 PM


5年ぶりに帰郷した。

まずは両親と挨拶。
突然私が帰ってきたので驚いている様子だったが
笑って迎え入れてくれた。
久しぶりの両親の顔、声。
その温かみに思わずジンときてしまった。

次は友人の家。
私は脅かそうと思い、ピンポンダッシュの要領で
隠れた。それを何ともないように見つけられた。
悔しかったが、同時に嬉しかった。
あれからどうした。こんなことがあった。
あの子はこうなって、その子はこうなってる。
いろんな話をした。もっと話したかった。
それでも明日話せるからと言い聞かせ、
次へ向かった。

学校を過ぎ、コンビニを過ぎ、坂を下る。
どれもどれも、懐かしい。
大きな犬も、小さな花も、溝のアメンボも。
私はひとつひとつに挨拶をして行く。
土手を通り、田んぼの側へ。
すると、ついにその時が来た。
影が過ぎ、地面が光る。緑が喜ぶ。
上を見ると目が合った。
青い空に、輝く太陽。
私はそれに笑いかけ、言った。

「ただいま、夏。」

8/3/2025, 4:52:17 PM

『ぬるい炭酸と無口な君』


窓の外で蝉が鳴いている。今は午後3時18分。
1番暑い時間帯真っ最中だ。
ソファでくつろぐ彼女の横に勢いよく腰かけ
炭酸の蓋を開ける。

「あー、ダメだ。ぬるいぬるい。」

買ったばかりの炭酸は熱にやられ
気が抜けてしまっている。甘ったるい。

「クソッ。せっかく2人っきりなのにさぁ、こんなに暑いとやんなっちゃうよね。良い場所だと思ったんだけどなぁ。クーラーはつかない。冷蔵庫も使えない。床は散らかってるしトイレは臭い。あと蝉がうるさい。まぁガキが来ないのが救いか。あーあ。これからどうしよう。」

炭酸を勢いよく飲み干し、彼女に覆い被さる。

「ねぇ聞いてるー?私、貴方のせいで
こうなってるんですけど。」

彼女の返事は無いし、目も合わせようとしてくれない。
彼女の髪を撫で、輪郭をなぞり、唇に指を当てる。が、反応はない。そんな彼女を見ていると腹が疼いて溜息が出る。体を支える腕の力をゆっくりと抜いていき、彼女と溶け合うよう体重をかける。反応はない。

「、、、どうしてこうなっちゃったんだろうね。
私、貴方と一緒に居たかっただけなのに。」

蝉の鳴き声、炭酸の甘ったるい香り。
そして、無口な彼女だけがそこに居た。

7/31/2025, 8:24:51 PM

『眩しくて』


朝、カーテンの隙間から溢れる光に起こされる。

下の階からお母さんが『ご飯だよ』と声をかける。

私は伸びをし、階段を降り、テーブルに着く。

朝ごはんはホットケーキ。

テーブルを家族みんなで囲み、

朝のニュースを聞きながら『いただきます』と...

そんな日常が羨ましくて————-


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『半袖』


僕は彼女を誘い旅に出た。

2人きりの電車。トンネルをくぐり、光が広がる。

蝉の鳴き声、揺らぐ地面、子どもの声。

駅から歩き、雑貨屋へ。

かき氷には懲りたので、アイスを買い、

外の椅子に座る。

———僕は、キミが好きだ。

彼女はアイスを咥え、袖が上がる。

———今年の夏も、花火を見よう。

黒髪と服を貼り付け涼しい笑顔で笑いかけてくる。

———-来年も、そのまた来年も。
    ここで夏を迎え入れよう。

全ての音が小さくなる。

———-僕は、キミが好きなんだ。

口が動かず、アイスだけが溶けていく。

いつの間にか居た子供たちが走り通り過ぎて行く。

———-夏休みは、始まったばかり。

7/31/2025, 9:51:27 AM

『熱い鼓動』

スペース確保ォ!!

             滑り込みセーフな白灰

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