『泡になりたい』
ドブ色をした池の底から泡が浮かび上がってくる。
私はそれを池のほとりで見下ろしていた。
あゝ 泡になりたい。
泡になれば
泡になれば 個性なんて何もない。
泡になれば 他人との境界がなくなる。
泡になれば 仲間だらけ。
泡になれば 見なくて済む。
泡になれば 人生は一瞬。
あゝ なんて綺麗なんだ。
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『涙の跡』
君の頬を涙が通る。
急いで拭いたようだけど、僕は見てしまった。
君は僕を睨みつける。
だけどその目は、助けを求めていた。
行き詰まっているようだった。
僕は呆気に取られ、言葉をかけることが出来なかった。
君の背中が離れて行く。
だめだった。
このままではダメだった。
だけどあの目は、
放って置かれることを望んでいるようにも見えた。
僕は迷った。
迷って、迷って、
迷っていたのに、
君の腕を掴んでいた。
君は振り返らず、立ち止まっただけだった。
こんな時でも、僕は出来損ないの人間のままだ。
言葉が思い浮かばない。
頭が真っ白になって、
それでも涙の跡が頭をよぎって。
ただ、君のことを助けたかった。
ヒーローになんてなれない。
分かっている。
平均以下の僕だ。
それでも、君のことを1番知っているのが僕だった。
君がどれだけ疑われても、
君がどれだけ嫌われても、
君がどれだけ悪くとも、
僕だけは君の隣に居ようと思えた。
5年ぶりに帰郷した。
まずは両親と挨拶。
突然私が帰ってきたので驚いている様子だったが
笑って迎え入れてくれた。
久しぶりの両親の顔、声。
その温かみに思わずジンときてしまった。
次は友人の家。
私は脅かそうと思い、ピンポンダッシュの要領で
隠れた。それを何ともないように見つけられた。
悔しかったが、同時に嬉しかった。
あれからどうした。こんなことがあった。
あの子はこうなって、その子はこうなってる。
いろんな話をした。もっと話したかった。
それでも明日話せるからと言い聞かせ、
次へ向かった。
学校を過ぎ、コンビニを過ぎ、坂を下る。
どれもどれも、懐かしい。
大きな犬も、小さな花も、溝のアメンボも。
私はひとつひとつに挨拶をして行く。
土手を通り、田んぼの側へ。
すると、ついにその時が来た。
影が過ぎ、地面が光る。緑が喜ぶ。
上を見ると目が合った。
青い空に、輝く太陽。
私はそれに笑いかけ、言った。
「ただいま、夏。」
『ぬるい炭酸と無口な君』
窓の外で蝉が鳴いている。今は午後3時18分。
1番暑い時間帯真っ最中だ。
ソファでくつろぐ彼女の横に勢いよく腰かけ
炭酸の蓋を開ける。
「あー、ダメだ。ぬるいぬるい。」
買ったばかりの炭酸は熱にやられ
気が抜けてしまっている。甘ったるい。
「クソッ。せっかく2人っきりなのにさぁ、こんなに暑いとやんなっちゃうよね。良い場所だと思ったんだけどなぁ。クーラーはつかない。冷蔵庫も使えない。床は散らかってるしトイレは臭い。あと蝉がうるさい。まぁガキが来ないのが救いか。あーあ。これからどうしよう。」
炭酸を勢いよく飲み干し、彼女に覆い被さる。
「ねぇ聞いてるー?私、貴方のせいで
こうなってるんですけど。」
彼女の返事は無いし、目も合わせようとしてくれない。
彼女の髪を撫で、輪郭をなぞり、唇に指を当てる。が、反応はない。そんな彼女を見ていると腹が疼いて溜息が出る。体を支える腕の力をゆっくりと抜いていき、彼女と溶け合うよう体重をかける。反応はない。
「、、、どうしてこうなっちゃったんだろうね。
私、貴方と一緒に居たかっただけなのに。」
蝉の鳴き声、炭酸の甘ったるい香り。
そして、無口な彼女だけがそこに居た。
『眩しくて』
朝、カーテンの隙間から溢れる光に起こされる。
下の階からお母さんが『ご飯だよ』と声をかける。
私は伸びをし、階段を降り、テーブルに着く。
朝ごはんはホットケーキ。
テーブルを家族みんなで囲み、
朝のニュースを聞きながら『いただきます』と...
そんな日常が羨ましくて————-
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『半袖』
僕は彼女を誘い旅に出た。
2人きりの電車。トンネルをくぐり、光が広がる。
蝉の鳴き声、揺らぐ地面、子どもの声。
駅から歩き、雑貨屋へ。
かき氷には懲りたので、アイスを買い、
外の椅子に座る。
———僕は、キミが好きだ。
彼女はアイスを咥え、袖が上がる。
———今年の夏も、花火を見よう。
黒髪と服を貼り付け涼しい笑顔で笑いかけてくる。
———-来年も、そのまた来年も。
ここで夏を迎え入れよう。
全ての音が小さくなる。
———-僕は、キミが好きなんだ。
口が動かず、アイスだけが溶けていく。
いつの間にか居た子供たちが走り通り過ぎて行く。
———-夏休みは、始まったばかり。
『熱い鼓動』
スペース確保ォ!!
滑り込みセーフな白灰