白灰

Open App

『泡になりたい』


ドブ色をした池の底から泡が浮かび上がってくる。

私はそれを池のほとりで見下ろしていた。

あゝ 泡になりたい。

泡になれば

泡になれば 個性なんて何もない。

泡になれば 他人との境界がなくなる。

泡になれば 仲間だらけ。

泡になれば 見なくて済む。

泡になれば 人生は一瞬。

あゝ なんて綺麗なんだ。


//----------------------


『涙の跡』


君の頬を涙が通る。

急いで拭いたようだけど、僕は見てしまった。

君は僕を睨みつける。

だけどその目は、助けを求めていた。

行き詰まっているようだった。

僕は呆気に取られ、言葉をかけることが出来なかった。

君の背中が離れて行く。

だめだった。

このままではダメだった。

だけどあの目は、

放って置かれることを望んでいるようにも見えた。

僕は迷った。

迷って、迷って、

迷っていたのに、

君の腕を掴んでいた。

君は振り返らず、立ち止まっただけだった。

こんな時でも、僕は出来損ないの人間のままだ。

言葉が思い浮かばない。

頭が真っ白になって、

それでも涙の跡が頭をよぎって。

ただ、君のことを助けたかった。

ヒーローになんてなれない。

分かっている。

平均以下の僕だ。

それでも、君のことを1番知っているのが僕だった。

君がどれだけ疑われても、

君がどれだけ嫌われても、

君がどれだけ悪くとも、

僕だけは君の隣に居ようと思えた。

8/5/2025, 5:08:25 PM