『泡になりたい』
ドブ色をした池の底から泡が浮かび上がってくる。
私はそれを池のほとりで見下ろしていた。
あゝ 泡になりたい。
泡になれば
泡になれば 個性なんて何もない。
泡になれば 他人との境界がなくなる。
泡になれば 仲間だらけ。
泡になれば 見なくて済む。
泡になれば 人生は一瞬。
あゝ なんて綺麗なんだ。
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『涙の跡』
君の頬を涙が通る。
急いで拭いたようだけど、僕は見てしまった。
君は僕を睨みつける。
だけどその目は、助けを求めていた。
行き詰まっているようだった。
僕は呆気に取られ、言葉をかけることが出来なかった。
君の背中が離れて行く。
だめだった。
このままではダメだった。
だけどあの目は、
放って置かれることを望んでいるようにも見えた。
僕は迷った。
迷って、迷って、
迷っていたのに、
君の腕を掴んでいた。
君は振り返らず、立ち止まっただけだった。
こんな時でも、僕は出来損ないの人間のままだ。
言葉が思い浮かばない。
頭が真っ白になって、
それでも涙の跡が頭をよぎって。
ただ、君のことを助けたかった。
ヒーローになんてなれない。
分かっている。
平均以下の僕だ。
それでも、君のことを1番知っているのが僕だった。
君がどれだけ疑われても、
君がどれだけ嫌われても、
君がどれだけ悪くとも、
僕だけは君の隣に居ようと思えた。
8/5/2025, 5:08:25 PM