-いと-

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5/23/2024, 9:45:35 AM

「お見舞いに来てくれてありがとう」
透き通った彼女の声。病人とは思えない姿にいつも驚く。彼女は癌で、手術をすれば治る可能性があるらしいが、本人は拒否している。これからも生きたい、と思えないのだという。
「ゼリー持ってきた。あと、頼まれたものも。」
そう言って、袋に入ったゼリーと、鞄に入れた毛糸と編み棒を渡す。彼女は太陽のような笑顔で、ありがとう、と言った。そんな彼女を見るのが好きだ。持ってきたものは、喜んで受け取ってくれる。そんな彼女の性格が好きだ。
「あっ、そういえば課題残ってた…。今日はもう帰る。またお見舞い来るから。じゃあ。」
「バイバイ!絶対来てよね?」

「要態が急変しました。今すぐ来てくれませんか?」
「分かりました。すぐ行きます。」
電話が来たのは翌日の早朝。癌が悪化したらしい。急いで着替え、自転車を飛ばす。病院に着く頃にはもう遅かった。彼女は眠っていた。目を覚ますのではないか、と思うくらい自然で美しい寝顔。息はしていなかった。もっと彼女と話をしたかったのに…。

※フィクション
【お題:また明日】

5/21/2024, 1:10:41 PM

また今日もしてしまった。鞄に財布は入っていた。レジでお金を払うつもりだった。なぜ「万引き」をしてしまったのか自分でも分からない。無意識のうちに、手に取った品物を鞄の中に入れていた。悪いことだと自覚している。見つからないよう、足早にスーパーを去る。定員に見つかってしまったのは、何回目だろうか。
「なぜ万引きなんてしたんだ?」
「分かりません…。無意識なんです…。」
そんなの言い訳だ、分かっているのに口が勝手に動く。そんな自分が嫌だ。透明人間にでもなって、今すぐ消えてしまいたい。
「…とにかく、2度としないように!!」
やりたくて万引きをしている訳じゃない。同じことを繰り返さないよう努力している。なのになぜ…?
もしも自分が消えてしまえば。ここのスーパーに迷惑をかけないで済む。理由のない万引きが減る(理由があっても絶対ダメ!!!)。=街の平和が守られる。自分自身が透明になることは難しい。透明に限りなく近い形になれるよう、風呂場へ行き、練炭を炊いた。後はこのまま待つだけ…

※フィクション
【お題:透明】

5/20/2024, 2:09:57 PM

怪人が現れた!人間に悪さをしてくる。機械を使って変身したヒーローたち。攻撃が全く効かない…!大ピンチ!!!
それを見た僕は、皆を助けたい、という強い思いによりヒーローに変身☆しかも、幻のヒーロー!僕は怪人の攻撃を掻い潜り、詰め寄る。そして、パンチとキックをしてやった。幼い僕を甘く見ていた怪人は、軽々と倒された。世界の平和は幻のヒーローによって救われたのだった。………

目が覚めた。今までのは夢だったのか…。っていうか、現実では戦隊モノのヒーローにはなれない。あり得ない。今日もまた1日が始まる。部屋に、ヒーローに変身できる機械があるような…。まあ、気のせいか。僕は寝ぼけているのだろう。現実世界に戻された意識を慣らせつつ、朝の支度をするのだった。

※フィクション
【お題:理想のあなた】

5/19/2024, 2:53:26 PM

「上京するから。家族のことは任せた。」
今朝、兄ちゃんに言われた。いつかは上京するだろう、と分かっていたがいきなり過ぎる。せめて1ヶ月くらい前に言ってほしかった。僕以外の家族は、兄ちゃんの上京を前から聞いていたのだと後に知った。兄ちゃんなりの気遣いなのだろう。
「お盆になったら帰って来るから。そのときはお土産でも持っていくよ。」
僕は兄ちゃんが見えなくなるまで、何回も手を振った。
数日後、手紙を書くことにした。今日は学校で友だちができた、算数の授業が難しすぎる、夕ご飯が僕の好きなオムライスだった、…今思えばしょうもないことしか書かなかった。とにかく兄ちゃんと話したかった。お盆が待ちきれなかった。
「早く帰って来ないかなー?」
夏休みに入り、あっという間に宿題を片付ける頃になった。自由研究や読書感想文に苦戦し、夏の暑さにも潰されそう。なんとか宿題を終わらせ、すぐに学校が始まった。
僕は疑問に思った。兄ちゃんは帰って来なかった。お盆は8月の真ん中くらいだよ、と母さんは言っていた。それなら、夏休み中に帰って来るはずだ。しかも、夏休み前頃から手紙の返事が返って来ない。毎日書いてはポストに入れていた。そのことを母さんや父さんに伝えたが、忙しいのだろう、としか言わない。しばらくの間待ってみたが、兄ちゃんが家に来ることも返事が来ることも無かった…。
僕が上京するとき、母さんから手紙を受け取った。そこには兄ちゃんについてのことが書かれていた。

[兄は上京した年の夏に亡くなりました。交通事故です。ずっと黙っていてごめんね。 母]

※フィクション
【お題:突然の別れ】

5/19/2024, 12:46:13 AM

学校の屋上に立ち、街を眺める。建物から漏れ出る光は何度見ても同じ。つまらなすぎる。毎日同じ日の繰り返し。生きている意味なんて無い。今日こそ、ここから飛び降りたい。フェンスを越え、落ちるか落ちないかのギリギリのところに立つ。
「何してるの?」
声が聞こえた。こんな時間に自分以外の人が学校にいるわけない。自分は不法侵入なのだが…。
「話聞いてる?君はここで何をしているの?」
「なっ、何もしてないし!」
また失敗した。誰かに見つかった。でも、その声に聞き覚えがない。ふわっとした優しい声。聞く人を包み込むような温かさ。なぜかまた聞きたくなった。

すべてが正反対の兄。勉強もスポーツも万能。そんな兄が小さい頃から羨ましかった。しかし、いつしか家族は変わっていった…。両親は完璧を押し付けてくる。分からないところを聞いただけで怒られる。殴ってくる。兄には見捨てられた。俺には関係ないとでもいうかのように。家族との衝突が増え、心も体もボロボロになっていった。こんな毎日なんて嫌。
ある日の夜、家族が寝静まる頃、こっそりと家を抜け出した。行き先は取り敢えず学校。1晩だけでもいいから落ち着くところに居たかった。非常階段を使い、学校に入った。日中よく行く学校の屋上。夜には行ったことがない。階段を登り、扉を開ける。そこには動く人影があった。身長や体格からして、不登校気味のあいつだろう。
「君、何してるの?」
相手はビクッとなった。自分1人しかいないと思っていたのだろう。
「なっ、何もしてないし!」
相手は自分の横を通り過ぎ、逃げていった。話せるチャンスだったのに…。自分で逃してしまった。たった1日で振られたようなものだ。でも、あいつには会えそうにない。すべてを諦めるため、屋上のギリギリに立ち、目を閉じ、体を前に預けた。

※フィクション
【お題:恋物語】

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