mouf_note

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4/17/2023, 2:32:50 PM

お題/桜散る

 花が、ちらちらと目の前を掠めていく。心の中に重くのしかかるのは、その花が散る様子に、何かを重ねたからか。
「……」
 伸ばした手に、淡い桃色の花びらが層を成す。しかしその花びらたちも、やがては手のひらからこぼれ落ちていく。
「ごめんね……、ごめん……」
 いくら謝っても届かない。
 許されることのない言葉。贖罪などと呼ぶことすら烏滸がましい。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 貴女を、嫌いになったわけじゃなかったのに。
 私は弱くて、どうしようもなく弱くて。一番失いたくなかったはずの貴女をいとも容易く失って。
「ごめ、……ん……ごめ、なさい……っ」
 ぼろぼろと流れる涙と、漏れ出す嗚咽の合間に口から自然に溢れる謝罪。
 赦さなくていいから。
 お願いだから。

 もういちどだけ、わたしとはなして。
 

4/16/2023, 12:47:42 PM

お題/ここではない、どこかで

 君を一目見た瞬間から、どこかで懐かしさを感じていた。
 どうしてか分からなかったんだ。けど、あるとき、ぽつりと君が言った。
「私ね、あなたを知ってるよ」
 君は続ける。
「ずっと、ずっと、ずーっと、待ってたんだ」
 君は僕の頬に手を添える。
「おかえり、」
 そのあとに続くのは、僕の知らない僕の名前。僕を通して違う誰かを見ている君。
「今度こそ、1000年一緒にいてよね」
 微笑んだ君に頷いてしまったのは、どうしてか。
 きっとそれは、現在(ここ)ではないどこか、遠い遠い、過去(どこか)の縁。

4/13/2023, 1:48:06 PM

お題/快晴

 晴れ渡る青空に、君の髪が煌めいた。眩しい太陽が照りつける。君は笑って僕の先を歩いた。
「暑いね」
「……そうだね」
 僕は溶けかけたアイスを一口齧りながら、楽しそうにはしゃぐ君を見つめる。
 こういうのもたまには悪くないな、なんて、柄にもないことを思う。
「楽しそうだね?」
「それは君でしょ」
 前を歩く君を追いかけながら、僕は返した。
「いーや、きみもだよ」
 その言葉に思わず顔をあげると、鼻先が触れそうなほどに近い距離に君の顔があって。驚いた僕に、君は、言った。
「好きだよ」
 溶けたアイスが地面に落ちる。熱い顔は、きっと気温のせいだけではなくて。それを誤魔化すように、僕は「暑いね」と呟いた。

4/11/2023, 2:15:18 PM

お題/言葉にできない

「ごめん」
 ひとこと。たった、一言だけ。僕の言葉を詰まらせるには、それで充分だった。
 聞きたかった「どうして」も、ぶつけたかった「ふざけるな」も、何も、出てこない。呼吸が、ままならない。ただ喉から掠れたように漏れる息の音だけが、部屋に響く。
「……ごめん……」
 僕の耳に届く、あんたのその声が、僕のすべてを奪う。
 言葉を奪う。
「ごめんなぁ……」
 抱き締められた身体は冷えている。ただ背中に回された手が、服越しのほんのりとした暖かさを伝えてくる。
「守れなくて、ごめん……」
 ちがうのに。僕はあんたに、そんなことを言わせたかったのではなかったのに。
 けれどやはり言葉は出てこない、頬を流れる水と、嗚咽だけが喉の奥から引っ張り出されて。
 僕は恐る恐る、背中に震える手を回した。

4/10/2023, 2:46:32 PM

お題/春爛漫

 花びらが、君を、彩る。
「……綺麗……」
 思わず出た言葉に、君はくすりと笑う。
「うん、とってもキレイ」
「……僕は春が好きじゃなかったけど、こういう景色は悪くないな」
 そう呟いた僕に、君は大仰に驚いて見せた。
「えぇ……どうして? いいじゃない、春」
「昔はね、好きだったんだ。でもね、あるときから好きじゃなくなってしまった」
 そして君に、手を伸ばす。
「大切な人を奪っていってしまったから」
 もう触れられない君。毎年この日だけ、姿を表す君。もしかしたら、すべて僕の空想なのかもしれない。本当は君はそこにはいないのかもしれない。
「そっかあ」
 君は、照れたような、嬉しそうな、なのにどこか寂しそうな笑みを浮かべた。すり抜ける君の掌が、また今年も透けていく。
「君はほんとうに、私のことが好きだね」
 今年の最後の言葉はそれだった。
 本当は、あの春の最中、花びらのように散ってしまった君の姿を、僕は、まだ追いかけている。
 

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