お題/言葉にできない
「ごめん」
ひとこと。たった、一言だけ。僕の言葉を詰まらせるには、それで充分だった。
聞きたかった「どうして」も、ぶつけたかった「ふざけるな」も、何も、出てこない。呼吸が、ままならない。ただ喉から掠れたように漏れる息の音だけが、部屋に響く。
「……ごめん……」
僕の耳に届く、あんたのその声が、僕のすべてを奪う。
言葉を奪う。
「ごめんなぁ……」
抱き締められた身体は冷えている。ただ背中に回された手が、服越しのほんのりとした暖かさを伝えてくる。
「守れなくて、ごめん……」
ちがうのに。僕はあんたに、そんなことを言わせたかったのではなかったのに。
けれどやはり言葉は出てこない、頬を流れる水と、嗚咽だけが喉の奥から引っ張り出されて。
僕は恐る恐る、背中に震える手を回した。
4/11/2023, 2:15:18 PM