お題/春爛漫
花びらが、君を、彩る。
「……綺麗……」
思わず出た言葉に、君はくすりと笑う。
「うん、とってもキレイ」
「……僕は春が好きじゃなかったけど、こういう景色は悪くないな」
そう呟いた僕に、君は大仰に驚いて見せた。
「えぇ……どうして? いいじゃない、春」
「昔はね、好きだったんだ。でもね、あるときから好きじゃなくなってしまった」
そして君に、手を伸ばす。
「大切な人を奪っていってしまったから」
もう触れられない君。毎年この日だけ、姿を表す君。もしかしたら、すべて僕の空想なのかもしれない。本当は君はそこにはいないのかもしれない。
「そっかあ」
君は、照れたような、嬉しそうな、なのにどこか寂しそうな笑みを浮かべた。すり抜ける君の掌が、また今年も透けていく。
「君はほんとうに、私のことが好きだね」
今年の最後の言葉はそれだった。
本当は、あの春の最中、花びらのように散ってしまった君の姿を、僕は、まだ追いかけている。
4/10/2023, 2:46:32 PM