『どこまでも続く青い空』
「大丈夫だよ。どんなに遠く離れたって、私達は同じ空の下にいるんだ」
君は涙を浮かべながら笑う。
自分に言い聞かせるように、どこまでも続く青い空を指さして。
「寂しくなったら、空を見よう?私はいつだって、この空の下にいるから」
涙を振り切って、にっこりと笑う君は、僕が恋に落ちた時と同じ。
世界でいちばん素敵な笑顔をしていた。
『始まりはいつも』
ビュゥ、と吹く風に髪が攫われる。
今日は高校生活最初の日。
はためくスカートを押さえて、私は目の前の校門を見上げた。
私の父と母は、幼い頃に亡くなった。
それ以降、全く寂しくなかったと言えば嘘になる。
けれど、私は両親がいつも、空から私を見守ってくれていると信じている。
だって、落ち込んだ時、涙を流した時、嬉しいことがあった時。
私の周りでは、いつも風が吹いていた。
両親が、頑張れって励ましてくれているように。
大丈夫だよって、抱き締めてくれているように。
よかったねって、共に喜んでくれているように。
そして、何かを始める時も、背中を押す風が吹いていた。
今日のように。
「お父さん、お母さん。私、頑張るよ」
誰にも聞こえないように、小さく呟いて、私は校門を潜り抜けた。
ビュゥ、とまた風が吹く。
私は笑って顔を上げた。
『忘れたくても忘れられない』
この体に、鮮烈に刻み込まれたあの感覚、あの興奮。
限界なんて見えなくて、どこまででも力を奮えそうで、私はあの時、自由だった。
忘れたくても、忘れられないの。
だから、何年経っても追い求める。
何十年経っても追い求める。
体が老いて、思う通りに動けなくなっても。
私が一番自由だったあの瞬間を再び味わえるように、限界に挑戦し続ける。
私ならできるわ。
だって、私は……最高の作家だから。
『やわらかな光』
ぽかぽかした部屋に寝転がって。
窓から吹き入る風を感じて。
やわらかな光に染まったレースカーテンを。
光の道ができた白い天井を見る時。
私はじんわりと、「あぁ、幸せだな」って思うんだ。
『鋭い眼差し』
「貴方を逮捕します」
逃亡、抵抗、その一切を許さない鋭い眼差しが僕を貫く。
恐怖からだろうか、体がゾクッと震えた。
それと同時に、涙も込み上げてきた。
「泣いても無駄よ。罪を犯したことを後悔しなさい」
「違うんです……」
捕まることに、涙しているんじゃない。
こんな人生なんか、終わったっていい。
牢獄に入って台無しになるほど、僕の人生は素敵なものじゃなかったんだから。
「刑事さん、僕の話を聞いてくれませんか……?」
「戯言なら聞かないわ。逃げるチャンスができると思わない事ね」
「貴女から逃げるつもりなんてありません……ただ、聞いてもらいたいんです。ずっと無視されてきた、僕の気持ちを……」
こんなに真っ直ぐ僕を見つめてくれる人なんて、今までいなかった。
きっと、貴女なら僕の話を聞いてくれる。
ずっと、誰かに聞いてもらいたかった、僕の心の叫び。
それを、取り調べ室で貴女に話そう。