結之志希

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10/15/2023, 12:00:44 AM

『高く高く』


 高く高く飛び上がって
 空の真ん中で両手を広げる
 自由が体を包み込んで
 私は新鮮な空気を吸い込んだ

 高く高く
 飛び上がる夢を見ていた
 私はまだ地面に立っている
 こんなところじゃ終われないと
 胸の奥が疼いているから
 高い高い場所を
 目指しに行こう

10/13/2023, 10:24:50 PM

『子供のように』


 子供のように笑う君が好きだった。
 無垢な君なら、僕を受け入れてくれるだろうという打算で付き合った。

 けれど、今の君はどうだろう。
 目を伏せて、唇を閉じたまま緩く口角を上げる姿は、まるで大人のようだった。
 初めて見る年齢相応の笑顔だった。

 あぁ、何を知ってしまったんだろう。
 僕が本当は、悪い人間だと気付いてしまったのか。

 君は、“騙してたんだね”とは言わなかった。
 静かに、「別れよう」とだけ、口にする。
 それは一重に、君の優しさだった。

 涙がこぼれる。
 こんな僕でも、浅ましい打算で君と付き合った僕でも。
 いつの間にか、子供のように声を上げて泣いてしまうほど、君を愛していたみたいだ。

10/13/2023, 9:10:28 AM

『放課後』


 ちりん、ちりりん、と風鈴が鳴る。
 おばあちゃんの駄菓子屋に遊びに来て、代わりに店番をすることになってから十数分。

 あまりにも人が来ないから、カウンターの上の扇風機に向かって「あ〜」と声を出してみた。
 耳に届くのは波打った声。


「ぷっ……」

「!?」


 抑え込もうとしたように、くぐもった吹き出し声が聞こえて、バッと店先を見る。
 そこにいたのは、半袖のYシャツに、黒のスラックスを着た、スポーツ刈りの男子。


「い、いつからそこに……っ?」

「……コホン、えっと、あんた、店の人? いつものばあちゃんは?」

「え、あ、おばあちゃんは今ちょっと出掛けてて……私が店番してるの」

「ふぅん、あのばあちゃんの孫とか?」

「そう」


 スポーツ刈りの男子は店の中に入ってきて、駄菓子を物色する。
 そのうち、すももを持ってレジに来た。


「えっと……」


 おばあちゃんに教えてもらった通りに、バーコードを読み込んでレジに表示された代金を見ると、「あ〜」と波打った声が聞こえる。


「! ちょっと……」

「久しぶりにやったわ、これ」


 楽しそうに、無邪気に笑う顔にドキッとしてしまったのは、絶対に秘密。


「それ、うちの制服じゃないな。あんたどこの学校?」

「西高……」

「へー、結構近いじゃん。西高ってバスケ強いだろ? 今度練習試合するから勝ちたいんだよな」

「えっ、あなたバスケ部なの?」


 こんな偶然、あるんだ。

 部活に入ることが必須で、何となくで選んだバスケ部のマネージャー……。
 眉根を下げながら、眉尻をくいっと上げて笑う顔を見ると、この人が勝てるといいなと、敵なのに思ってしまう。

 ちりん、と風鈴が鳴る音を聞きながら、私はすももの代金を読み上げて、お金を受け取る為に手を出した。


「今度練習試合に行った時、あんたがいないか探してみようかな」

「……すぐ見つかるよ、きっと」

「なんの自信だ、それ?」


 ぷはっと笑う彼と再開する時、驚いた顔が見れるのかなと思うと、今喋る気にはならなかった。


 ――これは、後に恋人となる彼と私の、出会いの瞬間。

10/11/2023, 10:03:44 PM

『カーテン』


 シャッと、カーテンを閉める。
 遮った光は、どちらのもの?

 チラッと、カーテンの隙間を覗き見る。
 眩しい光に目を逸らす。

 光の届かない暗い場所で、私は三角座り。
 カーテンで閉ざした心の奥に、ひきこもっている。


 シャッと、カーテンを閉める。
 遮った光は、どちらのもの?

 ピカッと、眩く照らされた場所でくるくる踊る。
 そんな自分を、もう一人が毛布でぐるぐる巻きにする。

 怯えに覆われた明るい場所で、私は三角座り。
 カーテンで閉ざした心の奥に、ひきこもっている。

10/10/2023, 10:07:47 PM

『涙の理由』


 ぽつ、ぽつと雨が降る。
 頭に雫が当たる感触がする。

 けれど、下を向いて地面のアスファルトを見ても、黒いシミはできていない。
 不思議な雨。

 そう思って、膝に座ったまま、後ろのお母さんを見上げる。


「ねぇ、お母さ……」


 ぽつ、と頬に雫が落ちる。
 お母さんの目から溢れて、頬を伝い、顎を滑り落ちて離れた雫が、僕の頬に。


「……どうして泣いてるの?」

「お父さん、いつになったら帰ってくるのかしらね。……体が冷えちゃうから、もう家の中に入りましょうか」


 壊れそうな感じで笑ったお母さんの目尻から、また雫が流れ落ちる。
 ぽつ、と頬に当たったそれは、僕の顎を伝って服に小さなシミを作った。

 僕は毎日、お母さんとのんびり外を眺める時間が好きなのに。

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