結之志希

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『放課後』


 ちりん、ちりりん、と風鈴が鳴る。
 おばあちゃんの駄菓子屋に遊びに来て、代わりに店番をすることになってから十数分。

 あまりにも人が来ないから、カウンターの上の扇風機に向かって「あ〜」と声を出してみた。
 耳に届くのは波打った声。


「ぷっ……」

「!?」


 抑え込もうとしたように、くぐもった吹き出し声が聞こえて、バッと店先を見る。
 そこにいたのは、半袖のYシャツに、黒のスラックスを着た、スポーツ刈りの男子。


「い、いつからそこに……っ?」

「……コホン、えっと、あんた、店の人? いつものばあちゃんは?」

「え、あ、おばあちゃんは今ちょっと出掛けてて……私が店番してるの」

「ふぅん、あのばあちゃんの孫とか?」

「そう」


 スポーツ刈りの男子は店の中に入ってきて、駄菓子を物色する。
 そのうち、すももを持ってレジに来た。


「えっと……」


 おばあちゃんに教えてもらった通りに、バーコードを読み込んでレジに表示された代金を見ると、「あ〜」と波打った声が聞こえる。


「! ちょっと……」

「久しぶりにやったわ、これ」


 楽しそうに、無邪気に笑う顔にドキッとしてしまったのは、絶対に秘密。


「それ、うちの制服じゃないな。あんたどこの学校?」

「西高……」

「へー、結構近いじゃん。西高ってバスケ強いだろ? 今度練習試合するから勝ちたいんだよな」

「えっ、あなたバスケ部なの?」


 こんな偶然、あるんだ。

 部活に入ることが必須で、何となくで選んだバスケ部のマネージャー……。
 眉根を下げながら、眉尻をくいっと上げて笑う顔を見ると、この人が勝てるといいなと、敵なのに思ってしまう。

 ちりん、と風鈴が鳴る音を聞きながら、私はすももの代金を読み上げて、お金を受け取る為に手を出した。


「今度練習試合に行った時、あんたがいないか探してみようかな」

「……すぐ見つかるよ、きっと」

「なんの自信だ、それ?」


 ぷはっと笑う彼と再開する時、驚いた顔が見れるのかなと思うと、今喋る気にはならなかった。


 ――これは、後に恋人となる彼と私の、出会いの瞬間。

10/13/2023, 9:10:28 AM