今までの私は何も無かった。
朝起きて、ご飯食べて、仕事をして、帰ってきて、同じことの繰り返しをしていた。
「今日もカップラーメンでいいや。」
全てに興味が無くなった。
ただ心に寂しさと穴が空いていく。
そんな時、黒猫にあった。
「黒猫…可愛いな…。」
指輪を落として行った。
「あ…。」
金色に輝く指輪はとても綺麗だった。
何を思ったか、私は指にはめてみた。
その瞬間、意識が無くなった。
目を覚ますと、知らない天井があった。
「あ、おはようございます。主様。」
主様…?
「主様…って誰のことですか…?」
「おや、少し混乱されているみたいですね。
主様はあなたですよ。」
私は夢を見ているみたいだ。
こんなイケメンが、私に「主様」だなんて。
「これからよろしくお願いしますね。」
「その…あなたのお名前は?」
「私はベリアンです。何なりとお申し付けくださいね。」
軽く笑った、そのベリアン…さんは。
とても綺麗だった。
これが、私と執事たちの出会い。
色々と話され、私は主になることを承諾した。
この瞬間から、無色の世界に色がついた。
「…………よろしくお願いします。」
この時、私は、泣いてしまったかもしれない。
でも、この涙は…いつもより暖かかった。
オレが綺麗に育てた桜も、
もう少しで散ってしまう。
「いやぁ、やっぱ桜は散るの早いっすね〜」
「早いね…」
別れと出会いの季節に、いつもそばにいる桜。
「あ、主様。」
「ん?なに?アモン。」
「髪に桜の花びらがついてるっすよ。」
「え、どこどこ…?」
「オレが取ってあげるっすから、ちょっと動かないでくださいっす。」
「あ、ありがと…」
そう言って、主様についている桜の花びらを取る。
「ん、取れたっすよ。」
「ふふ、アモンもついてる。」
「え、どこっすか?」
「なーんて、嘘だよ。」
「オレを騙したっすね〜?」
なんてやり取りも、全部…オレの夢の中の話。
桜と一緒に、オレの気持ちも散ってしまえば
辛い想いも、この主様の想いも、無くなるのだろうか。
「ハハッ、なんて、無くなるわけないっすね。
さーてと。」
主様に贈るっす。この桜を。
どうか、オレたちとの別れが来ても。
忘れないでくださいっす。
最近よく夢を見る。
ボクと主様が2人で笑いあってる夢。
「ふふ、主様。」
「なぁに。ラムリ。」
愛おしそうにボクの名前を呼んでくれる。
「なんでもないです!」
その声が好きで、ずっと聞いていたくなる。
「…? ラムリ変なの。」
ちょっと首を傾げて主様は言う。
それが可愛くて、愛おしくて。
「ふふ、主様。ほら、星が綺麗ですよ。」
ボクは星空を見てる主様が大好きだ。
「わぁ…綺麗…。」
そう言って、うっとりと星を眺めている主様。
その顔が好きで、ずっと見ていたくなる。
「主様。大好きですよ。」
「私も…だよ。」
そう言った瞬間、目が覚めた。
リアルな夢で、本当にこんなことがありそうで。
そう考えると、少し胸がドキドキした。
これは、夢見るボクの心。
どうか、
この胸のドキドキが主様にバレませんように。
「ラムリに花束を贈りたいから、手伝って。
アモン。」
オレの密かに思いを寄せてる人からそう言われた。
「…もちろんっす。」
そう笑って誤魔化した。
本当は羨ましかった。
いつも主様の近くにいるラムリが。
主様から贈り物だなんて、
「羨ましい。」
他の執事もそう言うだろう。
「んじゃ、一緒に薔薇を見ましょうっす!」
「うん!」
なんて、汚いこの気持ちがバレないように。
オレは、笑うっす。
「綺麗な薔薇を贈りたいな。」
あぁ、今だけは。
この笑顔を独り占めしても許されるっすよね?
「主様。」
「ん?なぁに?アモン。」
主様。大好きっす。なんて言えたら。
まぁ、そんなこと、言えないっすけどね。
「ははっ。なんでもないっす!」
オレのこの想いは届かなくてもいいっす。
オレの育てた薔薇を見て、微笑んでる主様を近くでみれるのは、庭師の特権っすからね。
神様へ、どうか彼とずっと一緒にいれますように。
そう、星に願いを送った。
「主様。星が綺麗ですね。」
「うん…綺麗だね…。」
満点の星空。
隣には私の大好きな彼がいる。
横を見ると、
キラキラした目で星を見ている彼がいる。
「可愛い…。」
ポツリと呟いた。
「ん?主様、何か言いましたか?」
「ううん。何も言ってないよ。」
「…?そうですか…」
「ふふ。ほら、いっぱい星座作ろ?」
「そうですね!主様!」
神様へ。
どうか、この日常がずっと続きますように。
私の大好きな彼と笑っていれますように。