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11/16/2024, 12:17:51 AM

春に来た子猫はもう、砂のおトイレ覚えたよ。
お兄ちゃんはまだオムツのままなの?
「お兄ちゃんも子猫ちゃんと同じように可愛がってあげてね。」
お母さんはそう言うけれど、お兄ちゃんは可愛くない。
すぐ叩くし、すぐ蹴るし、すぐこぼすし、オムツは臭い。
子猫の段ボールに、交換こって入れてくれば良かったのに。
そう言ったらぶたれたよ。
子猫ちゃんと、お兄ちゃん。おんなじようにわたしもね、可愛がってよ、お母さん。

11/15/2024, 4:11:52 AM

 彼女は、毎年秋になるとこの別荘にやってきて、向かいのコテージの僕へ手を振ってくれる。
 秋になったら僕はコテージへ来る。元々は、紅葉が素晴らしく、空気も美味いから買ったし、夏から秋にかけて滞在する場所だったのに、彼女とすれ違いになるのが嫌で、秋から冬に期間を変えたのだった。
 毎日、ドキドキしながら彼女を待った。庭の木椅子に座り、唇を湿らす程度にココアを傾けて、ひたすら待った。夕方になると、冷め切ったココアを飲み干して、とぼとぼとベッドへ向かう。それをひたすら繰り返した。
 今年の秋風は、やたらに寒い。心地よさはなく、喉を渇かし、肌を裂き、僕の心を冷え込ませる。
 きっと冬が追い越していたのだろう。結局、僕の元に秋は訪れなかった。
 彼女の別荘の玄関に、蜘蛛の巣が張ってる。枝でそれを振り払う。逞しい蜘蛛が枝に垂れ下がっている。「来年はあるか」と問うた。蜘蛛は去っていった。

11/14/2024, 12:10:39 AM

 友人とはぐれた。なんてこった。僕は登山初心者だし、友人に道案内を任せていたから、地図もない。携帯も圏外だ。おかしいな、普通に繋がるって聞いていたのに。ずいぶんと外れに来てしまったのだろうか。
 道はあるけれど、看板がない。迷ったら下れという知識から、下る道を選ぶけれど、すぐにまた上ってしまう。同じところをぐるぐる回っている気さえする。
 上って下って、平坦な道に差し掛かる。先を見た。
「!」
 誰か、いた。動きが止まり、息も止まる。踊り損ねたような格好で、僕は静止した。目を逸らせず、じっとみた。
 若い女性だ。黒髪が背中まで伸びていて、白いワンピースを着ている。山の中だというのに、ナップザックと登山靴を身につけていない。それどころか、何の荷物もなく、裸足だった。
 今までは、人っ子一人いなかった。だから、突如現れたその女性が、ひどく不気味に感じた。格好といい、あまりに幽霊然とし過ぎている。
 幽霊然とし過ぎているから、人間なのだろう。こんな創作じみた幽霊が本当にいるわけがない。なんだか、気分が良くなってきた。
「迷ってるんです。」
 自ら話しかけた。女性は、ぼんやりと笑った。
「それなら、ここを上るといいですよ。てっぺんに辿り着けます。みんな、待っていますよ。」
 女性は、白い腕を斜め上に突き出した。指差す先には、長い階段があった。こんなのあったのか。気づかなかった。
「ありがとうございます。」
 礼を言って、階段の一段目に足を掛ける。二段目、三段目、再び女性の声がした。
「また会いましょう。」
 声の方を振り返ったが、すでに女性の姿はなかった。てっぺんへ続く別の道もあるのかな。
 見上げてみると、階段はすごく長い。でも、てっぺんに辿り着きたい。なぜか頭がふわふわして、とても幸せなんだ。階段も苦じゃない。足が羽根のようで、さっきまでの痛みが嘘のようだ。
 登山禁止の期間だけど、僕たちは悪くなかったんだな。だって、てっぺんでみんな、待ってるんだろ。


 

11/12/2024, 11:54:25 PM

 よく日焼けしてて根明な上司と、二回目のツーリング。赤紫の海沿いを走って、オフシーズンの海水浴場の駐車場に向かう。彼は、よそ見をして、綺麗だと感動しながら、走っていく。僕は、ひたすら彼の背中を追いかけて、目を逸らせず、肩に力を入れていた。
 駐車場に着くと、缶コーヒーを奢ってくれる。あまり好きではないが、わざわざ言い出すような関係性でもなかった。感謝の言葉を口にして、海を見る。赤く焼けて、恐ろしかった。
「綺麗だなあ。」
 彼のその言葉に、僕は共感できなかった。
「この景色見るために、走ってるよな。」
 彼のその言葉に、僕は共感できなかった。
「平和な毎日にちょっとしたスリルを与えてくれる、バイクってのは最高の相棒だよ。」
 彼のその言葉に、「根本的に相容れない」と思った。
 僕がバイクに乗っているのは、恐怖を克服する日を夢見ているからだ。死にそうになるくらいの恐怖に自分を慣れさせれば、日々生きる恐怖なんて軽くなると思ってた。
 だけど、そんなことはない。むしろ、歩道を歩いているだけで、後ろから迫り来る四輪車の駆動音によって、喉がつっかえるくらい、動悸がするようになった。
 僕はただ生きるだけでスリルフルだ。そんなにスリルが欲しいなら、こいつに分けてやろうか。
 そう思いながら、僕は、
「そうっすね〜。」
 と返答した。

 帰りは真っ暗で、僕を追い越してバイクがスピードを出すから、輪郭さえあやふやになって、僕はこのまま横転して、海に投げ出されたかった。
「また来週、同じ時間な。」
 上司は満足そうに言う。上司に逆らって、職場に居られなくなって自主退職して、次の仕事が見つからなくって毎日不安と恐怖を抱えながら布団を被る、そんな「スリル」は欲しくないから、
「そうっすね〜。」
 と返答した。

11/11/2024, 6:17:03 PM

学校に行くのって大変だ。電車に乗る時も降りる時も、駅員さんの手を煩わせる。エレベーターを待つのも、遅刻しないかハラハラするし、道に出ても、ずっと腕で体を動かすから筋肉痛。
学校についた後だって、移動教室の時には友達に押してもらって、申し訳ない。大好きな体育は、おままごとみたいなキャッチボールしかできない。
みんな、道を開けてくれる。中には、見下すような一瞥をくれる子もいる。私はそれに気付かぬふりをして、腕を急いで動かして、通り過ぎる。
気にしないで、私の天使ちゃん。って母さんは言う。私のかわいい子ってこと?それとも、母さんには私の背中に翼が見えるの?
だったら飛び方を教えてほしい。大空なんて飛べなくっていいから、みんなと同じように地面を駆けて、飛び跳ねられる方法を。

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