よく日焼けしてて根明な上司と、二回目のツーリング。赤紫の海沿いを走って、オフシーズンの海水浴場の駐車場に向かう。彼は、よそ見をして、綺麗だと感動しながら、走っていく。僕は、ひたすら彼の背中を追いかけて、目を逸らせず、肩に力を入れていた。
駐車場に着くと、缶コーヒーを奢ってくれる。あまり好きではないが、わざわざ言い出すような関係性でもなかった。感謝の言葉を口にして、海を見る。赤く焼けて、恐ろしかった。
「綺麗だなあ。」
彼のその言葉に、僕は共感できなかった。
「この景色見るために、走ってるよな。」
彼のその言葉に、僕は共感できなかった。
「平和な毎日にちょっとしたスリルを与えてくれる、バイクってのは最高の相棒だよ。」
彼のその言葉に、「根本的に相容れない」と思った。
僕がバイクに乗っているのは、恐怖を克服する日を夢見ているからだ。死にそうになるくらいの恐怖に自分を慣れさせれば、日々生きる恐怖なんて軽くなると思ってた。
だけど、そんなことはない。むしろ、歩道を歩いているだけで、後ろから迫り来る四輪車の駆動音によって、喉がつっかえるくらい、動悸がするようになった。
僕はただ生きるだけでスリルフルだ。そんなにスリルが欲しいなら、こいつに分けてやろうか。
そう思いながら、僕は、
「そうっすね〜。」
と返答した。
帰りは真っ暗で、僕を追い越してバイクがスピードを出すから、輪郭さえあやふやになって、僕はこのまま横転して、海に投げ出されたかった。
「また来週、同じ時間な。」
上司は満足そうに言う。上司に逆らって、職場に居られなくなって自主退職して、次の仕事が見つからなくって毎日不安と恐怖を抱えながら布団を被る、そんな「スリル」は欲しくないから、
「そうっすね〜。」
と返答した。
11/12/2024, 11:54:25 PM