リル

Open App
8/25/2025, 12:25:49 AM

見知らぬ街

 見知らぬ街など、もうすでにこの世にはないのだろう。何もかも調べればすぐに分かってしまう。街の風景、言語、生活習慣、そしてその街の場所。昔は街に着いてもここが目的の場所かどうか、調べる方法があまりなかった。
 昔、コロンブスはアメリカ大陸をインドだと勘違いをした。人間とは恐ろしいものだ。インドを目指したために、どこに着いてもインドだと勘違いしてしまう。
 昔は全てが未知の世界であり、興味がそそられるものばかりだ。知らないことが多ければ、知っているもので補おうとする。コロンブスはインドという国名を知っていた。しかし、行ったことがないため、どのような場所が分からなかった。だから、アメリカ大陸を知っている単語のインドで補った。ということだろう。
 しかし、今では何でも調べられてしまう。そのため、とても効率的に動くことが可能で、行きたい場所にも簡単に行ける。世の中は便利になりすぎて、逆につまらないかもしれない。
 フロンティアの開拓、フロンティア精神などという言葉があったように、人々は土地の開拓に心がときめいていた。やはり、人間は好奇心が爆発したときに本領を発揮するのだろう。見知らぬ街は興味をそそられる。現在、この世のどこかに見知らぬ街があれば、きっとこぞって調べるはずだ。この今の時代に、人々が好奇心のままに動ける街があれば、さらに楽しめるのではないだろうか。

8/24/2025, 1:07:01 AM

遠雷

 ただ手を握られただけだった。それだけで、ネットに拡散されてしまった。一体、誰が盗撮をしたのだろうと気になって仕方がない。一瞬にして、全てを奪われた。遠くで雷の音がする。それはまるで、何か変化が起こる前兆に感じる。
 不倫などしていないのに、勝手に決めつけられる。ネット上の人間は、雷の刃物が突き刺さるように鋭く、相手の心をえぐる。
 雷が鳴る日に、この暴言はきつすぎる。私は家の中に引きこもって、ブルブル震えている。何も知らない、やっていないのに、なぜそこまで人を傷つけられるのだろうか。
 昼間なのに真っ暗な空。どうしても気分が落ち込む。雷の音を恐怖としか思えない。しかし、雷はいつか去っていく。ネットの炎上もいつかは小さくなっていく。それは、他に標的を見つけたか、もう叩くのに飽きたのか、人それぞれだ。
 早くネットの雷雲が去ってくれ。窓の外、遠くの方で鳴る雷は気づくと音が聞こえなくなっていた。自然と口角が上がった。スマホの画面をもう一度見ると、炎上は続いたまま。
 まあ、いつかは去っていくだろう。そう思うと、なんだか少しラクになった。
 明日は、仕事に行こうかな。そう決めて、今日は早めに寝ることにした。

8/22/2025, 11:54:35 PM

Midnight Blue

 濃い紺色。なんだか、闇を思わせる。暗い闇の中では気分が落ち込む。それにずっと一人で泣いている子供が遠くにいる。そんな気持ちになって仕方がない。
 根拠などないが、夢の中で見たことがある気がするのだ。助けてあげたい。そう思っても近づけない。いくら走ってもあの子供との距離が縮まらない。周りの木々たちが私自身を取り囲んでいるようで、動いても全く景色が変わらない。全てが私を中心に動いているようだ。
 しばらくもがいていると、闇の中でうっすらと遠くの方が青くなりだした。朝焼けという感じか。とても透き通った空気をめいいっぱい吸い込みたくなった。
 気がついたら、あの子供はいなくなっていた。しかし前にも、こんな事があったように感じる。夢の中で気分が明るくなると、あの子供は必ずいなくなる。夢の中でしか見ることのできないあの子供。気分が落ち込んでいる、暗い気持ちのときにだけ現れるんだ。
 どうしてあの子は泣いていたのか。その理由は、何となく分かる。ような気がする。自分自身への失望、子供の頃の私への怒り、それらの気持ちが溢れ出しているのだ。それに私と何かつながりを感じる。子供の頃の自分にあの子供がそっくりなのだ。
 夢の中でしか会えない、触れることもできないあの子供に、また夢の中で会いに行こうと思う。

8/21/2025, 12:10:58 PM

君と飛び立つ

 落ちこぼれの士族。そう言われ続けた俺の一族は、初めて歴史の1ページに刻まれることになった。

「なあ、喜久丸。このまま、ぼーっと生きるつもりか?」
「え?駄目なの?」
 俺は自由に生きたいだけなんだけどな。別に武士だからといばるわけでもないし、前線に立って戦うつもりもない。それに、まだ俺はこの地の領主になどなっていないのだから。今からせかせかしたところで意味もない。
「それよりも、佐太郎はどうして俺に構うんだ?」
「だってお前、戦ちょー得意だろ?俺にはそう見えるね。」
 は?俺、戦ったことなんて一度もないんですけど。そもそも下働きで戦いを見たことすらないんですけど。
「一緒に、戦に行こう!」
 そう佐太郎は言った。のだが、無理だろ。だって、俺の家、ものすごく弱いから!武士としても、人間としても!
 俺の一族は弱すぎて、ほとんどは他の武士の下働き。マジで最悪。武士っていうより、奴隷か?って感じだ。
「はあ、今日も同じ景色…。」
「おーい、喜久丸!遊びに来たよ!」
 遊びに来たって、佐太郎は俺の上官の息子だろ。まあ、上官の息子っていっても、敬語使ったことないけど。同い年だし。よく、親の目を盗んで一緒に遊んでいたし。
「今日は何すんの?」
「ん〜そうだな。戦でも見に行くか?」
「え?」

 俺たちはいつものように親の目を盗んで屋敷を抜け出した。
「ははっ!ちょろすぎだろ!簡単に家から抜け出せる!」
「自分の家のことをよくもそんなふうに言えるよね。で、どこで戦やってんの?」
「あ〜、どこだろ?」
 佐太郎っていつも行き当たりばったりだよな。まあ、何となくそう言うと思ってたけど。
「お!あそこ何か騒がしくね?」
「いや、あれはただの酒飲みが楽しんでるだけ。」
「あそこは?」
「あそこは…何だろう?」
「侍が暴れてるぞ!」
 どこかからそんな声が聞こえた。ぼーっと突っ立ってるつもりだった。知らんぷりしよう、そう思っていた。しかし、気がついたら、暴動を起こした侍の首を絞めていた。
「俺、何やってんだ。お侍さん、すまない。気がついたら首を絞めてた。」
 俺はちゃんと謝って首から手を離した。
「気をつけろ。」
 なんだか、ムカッとした。
「ん〜、気をつけるのはお侍さんの方じゃない?」
 そう言い返した。
 そうしたら、その日の夜に父にものすごく叱られた。なんと、あの侍はどこかのお偉いさんの坊っちゃんらしかった。どこのどいつかは知らん。興味ないし。
 それに次の日、父に佐太郎と一緒に武者修行に行け、と言われてしまった。なのに、佐太郎はとても楽しそうだった。
「いやぁ~、あのバカ親父から解放された!」
 そんなに、お父さんと仲が悪かったのかな。まあ、あの親父は意地悪だからな。無理もない。
「なあなあ、喜久丸。飯食おう!俺腹減ってさ。いいだろ!」
 のんきなものだ。このままではいつか、死ぬのではないか。ん〜、まあいっか。


 あれから十年後、俺は戦に出ていた。
「これが戦か?」
「そうだ、吉徳。いやぁ~、名前もらえて良かったな!」
「名前、あんま気に入らないんだよね。」
 名前からすると、恵まれてるとか、そんな意味に捉えられる。でも別に恵まれてなんかないんだけどって言いたい。
 佐太郎は俺の言葉を聞いて笑っていた。しかし、ようやく花が開いたようだ。色々ありすぎて、逆に思い出せない。でも、ずっと隣には佐太郎がいてくれた。それだけは、はっきりと覚えている。
「一緒に、この大戦に飛び立とう!」
「おう!よっしゃ、行くぞ!」

8/21/2025, 4:04:45 AM

きっと忘れない

 朝ご飯を食べる。着替える。家を出る。学校に行く。普段の生活などつまらない。もっと、弾けたい。
 頭の中は自由で、どこへでも行ける。電車に乗って毎日、頭の中で遠くの何処かへ旅に出ている。海に行ったり、山に行ったり、大好きな自分だけのキャラクターを動かしたりして。
 休み時間にぼーっとホワイトボードを眺めてまたキャラクターと遊ぶ。彼は私のことを分かってくれる。
 私には彼がいないと生きていけない。そう思うくらいに大好きなのだ。現実で会ってみたい。そんな叶わぬ夢をいつもみている。でも、もし会ってしまったら夢がなくなってしまう…なんて考えたくない。
 毎日一緒に遊んで寝て、やっぱり触れてみたい。やっぱり会ってみたい。きっとお婆さんになっても、忘れないだろう。大好きな私の中の彼氏に。

Next