君と飛び立つ
落ちこぼれの士族。そう言われ続けた俺の一族は、初めて歴史の1ページに刻まれることになった。
「なあ、喜久丸。このまま、ぼーっと生きるつもりか?」
「え?駄目なの?」
俺は自由に生きたいだけなんだけどな。別に武士だからといばるわけでもないし、前線に立って戦うつもりもない。それに、まだ俺はこの地の領主になどなっていないのだから。今からせかせかしたところで意味もない。
「それよりも、佐太郎はどうして俺に構うんだ?」
「だってお前、戦ちょー得意だろ?俺にはそう見えるね。」
は?俺、戦ったことなんて一度もないんですけど。そもそも下働きで戦いを見たことすらないんですけど。
「一緒に、戦に行こう!」
そう佐太郎は言った。のだが、無理だろ。だって、俺の家、ものすごく弱いから!武士としても、人間としても!
俺の一族は弱すぎて、ほとんどは他の武士の下働き。マジで最悪。武士っていうより、奴隷か?って感じだ。
「はあ、今日も同じ景色…。」
「おーい、喜久丸!遊びに来たよ!」
遊びに来たって、佐太郎は俺の上官の息子だろ。まあ、上官の息子っていっても、敬語使ったことないけど。同い年だし。よく、親の目を盗んで一緒に遊んでいたし。
「今日は何すんの?」
「ん〜そうだな。戦でも見に行くか?」
「え?」
俺たちはいつものように親の目を盗んで屋敷を抜け出した。
「ははっ!ちょろすぎだろ!簡単に家から抜け出せる!」
「自分の家のことをよくもそんなふうに言えるよね。で、どこで戦やってんの?」
「あ〜、どこだろ?」
佐太郎っていつも行き当たりばったりだよな。まあ、何となくそう言うと思ってたけど。
「お!あそこ何か騒がしくね?」
「いや、あれはただの酒飲みが楽しんでるだけ。」
「あそこは?」
「あそこは…何だろう?」
「侍が暴れてるぞ!」
どこかからそんな声が聞こえた。ぼーっと突っ立ってるつもりだった。知らんぷりしよう、そう思っていた。しかし、気がついたら、暴動を起こした侍の首を絞めていた。
「俺、何やってんだ。お侍さん、すまない。気がついたら首を絞めてた。」
俺はちゃんと謝って首から手を離した。
「気をつけろ。」
なんだか、ムカッとした。
「ん〜、気をつけるのはお侍さんの方じゃない?」
そう言い返した。
そうしたら、その日の夜に父にものすごく叱られた。なんと、あの侍はどこかのお偉いさんの坊っちゃんらしかった。どこのどいつかは知らん。興味ないし。
それに次の日、父に佐太郎と一緒に武者修行に行け、と言われてしまった。なのに、佐太郎はとても楽しそうだった。
「いやぁ~、あのバカ親父から解放された!」
そんなに、お父さんと仲が悪かったのかな。まあ、あの親父は意地悪だからな。無理もない。
「なあなあ、喜久丸。飯食おう!俺腹減ってさ。いいだろ!」
のんきなものだ。このままではいつか、死ぬのではないか。ん〜、まあいっか。
あれから十年後、俺は戦に出ていた。
「これが戦か?」
「そうだ、吉徳。いやぁ~、名前もらえて良かったな!」
「名前、あんま気に入らないんだよね。」
名前からすると、恵まれてるとか、そんな意味に捉えられる。でも別に恵まれてなんかないんだけどって言いたい。
佐太郎は俺の言葉を聞いて笑っていた。しかし、ようやく花が開いたようだ。色々ありすぎて、逆に思い出せない。でも、ずっと隣には佐太郎がいてくれた。それだけは、はっきりと覚えている。
「一緒に、この大戦に飛び立とう!」
「おう!よっしゃ、行くぞ!」
8/21/2025, 12:10:58 PM