リル

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遠雷

 ただ手を握られただけだった。それだけで、ネットに拡散されてしまった。一体、誰が盗撮をしたのだろうと気になって仕方がない。一瞬にして、全てを奪われた。遠くで雷の音がする。それはまるで、何か変化が起こる前兆に感じる。
 不倫などしていないのに、勝手に決めつけられる。ネット上の人間は、雷の刃物が突き刺さるように鋭く、相手の心をえぐる。
 雷が鳴る日に、この暴言はきつすぎる。私は家の中に引きこもって、ブルブル震えている。何も知らない、やっていないのに、なぜそこまで人を傷つけられるのだろうか。
 昼間なのに真っ暗な空。どうしても気分が落ち込む。雷の音を恐怖としか思えない。しかし、雷はいつか去っていく。ネットの炎上もいつかは小さくなっていく。それは、他に標的を見つけたか、もう叩くのに飽きたのか、人それぞれだ。
 早くネットの雷雲が去ってくれ。窓の外、遠くの方で鳴る雷は気づくと音が聞こえなくなっていた。自然と口角が上がった。スマホの画面をもう一度見ると、炎上は続いたまま。
 まあ、いつかは去っていくだろう。そう思うと、なんだか少しラクになった。
 明日は、仕事に行こうかな。そう決めて、今日は早めに寝ることにした。

8/24/2025, 1:07:01 AM