リル

Open App
8/21/2025, 12:10:58 PM

君と飛び立つ

 落ちこぼれの士族。そう言われ続けた俺の一族は、初めて歴史の1ページに刻まれることになった。

「なあ、喜久丸。このまま、ぼーっと生きるつもりか?」
「え?駄目なの?」
 俺は自由に生きたいだけなんだけどな。別に武士だからといばるわけでもないし、前線に立って戦うつもりもない。それに、まだ俺はこの地の領主になどなっていないのだから。今からせかせかしたところで意味もない。
「それよりも、佐太郎はどうして俺に構うんだ?」
「だってお前、戦ちょー得意だろ?俺にはそう見えるね。」
 は?俺、戦ったことなんて一度もないんですけど。そもそも下働きで戦いを見たことすらないんですけど。
「一緒に、戦に行こう!」
 そう佐太郎は言った。のだが、無理だろ。だって、俺の家、ものすごく弱いから!武士としても、人間としても!
 俺の一族は弱すぎて、ほとんどは他の武士の下働き。マジで最悪。武士っていうより、奴隷か?って感じだ。
「はあ、今日も同じ景色…。」
「おーい、喜久丸!遊びに来たよ!」
 遊びに来たって、佐太郎は俺の上官の息子だろ。まあ、上官の息子っていっても、敬語使ったことないけど。同い年だし。よく、親の目を盗んで一緒に遊んでいたし。
「今日は何すんの?」
「ん〜そうだな。戦でも見に行くか?」
「え?」

 俺たちはいつものように親の目を盗んで屋敷を抜け出した。
「ははっ!ちょろすぎだろ!簡単に家から抜け出せる!」
「自分の家のことをよくもそんなふうに言えるよね。で、どこで戦やってんの?」
「あ〜、どこだろ?」
 佐太郎っていつも行き当たりばったりだよな。まあ、何となくそう言うと思ってたけど。
「お!あそこ何か騒がしくね?」
「いや、あれはただの酒飲みが楽しんでるだけ。」
「あそこは?」
「あそこは…何だろう?」
「侍が暴れてるぞ!」
 どこかからそんな声が聞こえた。ぼーっと突っ立ってるつもりだった。知らんぷりしよう、そう思っていた。しかし、気がついたら、暴動を起こした侍の首を絞めていた。
「俺、何やってんだ。お侍さん、すまない。気がついたら首を絞めてた。」
 俺はちゃんと謝って首から手を離した。
「気をつけろ。」
 なんだか、ムカッとした。
「ん〜、気をつけるのはお侍さんの方じゃない?」
 そう言い返した。
 そうしたら、その日の夜に父にものすごく叱られた。なんと、あの侍はどこかのお偉いさんの坊っちゃんらしかった。どこのどいつかは知らん。興味ないし。
 それに次の日、父に佐太郎と一緒に武者修行に行け、と言われてしまった。なのに、佐太郎はとても楽しそうだった。
「いやぁ~、あのバカ親父から解放された!」
 そんなに、お父さんと仲が悪かったのかな。まあ、あの親父は意地悪だからな。無理もない。
「なあなあ、喜久丸。飯食おう!俺腹減ってさ。いいだろ!」
 のんきなものだ。このままではいつか、死ぬのではないか。ん〜、まあいっか。


 あれから十年後、俺は戦に出ていた。
「これが戦か?」
「そうだ、吉徳。いやぁ~、名前もらえて良かったな!」
「名前、あんま気に入らないんだよね。」
 名前からすると、恵まれてるとか、そんな意味に捉えられる。でも別に恵まれてなんかないんだけどって言いたい。
 佐太郎は俺の言葉を聞いて笑っていた。しかし、ようやく花が開いたようだ。色々ありすぎて、逆に思い出せない。でも、ずっと隣には佐太郎がいてくれた。それだけは、はっきりと覚えている。
「一緒に、この大戦に飛び立とう!」
「おう!よっしゃ、行くぞ!」

8/21/2025, 4:04:45 AM

きっと忘れない

 朝ご飯を食べる。着替える。家を出る。学校に行く。普段の生活などつまらない。もっと、弾けたい。
 頭の中は自由で、どこへでも行ける。電車に乗って毎日、頭の中で遠くの何処かへ旅に出ている。海に行ったり、山に行ったり、大好きな自分だけのキャラクターを動かしたりして。
 休み時間にぼーっとホワイトボードを眺めてまたキャラクターと遊ぶ。彼は私のことを分かってくれる。
 私には彼がいないと生きていけない。そう思うくらいに大好きなのだ。現実で会ってみたい。そんな叶わぬ夢をいつもみている。でも、もし会ってしまったら夢がなくなってしまう…なんて考えたくない。
 毎日一緒に遊んで寝て、やっぱり触れてみたい。やっぱり会ってみたい。きっとお婆さんになっても、忘れないだろう。大好きな私の中の彼氏に。

8/20/2025, 2:45:30 AM

なぜ泣くの?と聞かれたから

「お兄さん、なんで泣いてるの?」
 そう聞かれたから、僕はこう答えた。
「嬉しいんだよ。心の底から。」
「嬉し泣き?でも、嬉しそうに見えないけど。」
 僕はどんな表情をしている?と聞こうとしたが、話しかけてきた子供は友達に呼ばれて行ってしまった。
 しかし、なんで泣いていたんだろう。なんで、公園の端っこで蹲っているんだろう。ここにずっといよう。もう、誰とも話したくない。家の場所も分からないのだから。

「なあ、室田ってこのあと暇?」
「すまん、このあと弟と公園に行って遊ぶ約束なんだ。じゃ、またな。」
 学校が終わって階段を急いで駆け降りる。早く帰らないと、宏斗との約束の時間に間に合わない。駆け足で公園に向かった。
「お兄ちゃん、いた!」
 宏斗が横断歩道を渡っていた。僕を見つけてはしゃいでいる。なぜ、公園で待っていないんだ。危ないから早く渡れ。気づくと、宏斗のすぐ近くまで車が来ていた。
「逃げろ、早く!」
 弟が遠くまでふっ飛ばされた。頭から血を流していた。なぜかとっても、嬉しかった。頭がおかしくなったようで、涙も出なかった。そして、何も考えずに宏斗を連れて、遊ぶ約束をした公園に向かった。
 ずっと、弟の面倒を見るのが嫌だったのかもしれない。だから、死んでくれて嬉しかった。のか?もう、どうでもいいや。何もかも忘れよう。考えないようにしよう。
「でも、嬉しそうに見えないよ。」
 あの子供の言う通りかもね。弟が生き返らない、そのことを否定しようと必死なんだろうね。

8/19/2025, 1:07:09 AM

足音

 あれは、お兄ちゃんの足音だ。こっちに近づいてくる。
「さえ、朝ご飯だぞ。テーブルに行こう。」
「うん。」
 朝ご飯は、何だろう。甘い味噌の香り。西京焼きかな。ってことは、和食?
「私、魚の骨苦手なんだけど。」
「サワラ、苦手か?」
 そう言われて、とっさに口にサワラを放り込んだ。

「おはよう、さえちゃん。今日は空真っ青だよ。」
「やっぱりそうなの?なんか青空っていいね。」
 学校は人がたくさんいる。遠ざかっていく足音、チョークで黒板に書く音、友達のひそひそ話。
 その中でも足音には、悪意がよく現れる。悪意のある人が近づいてくるとき、足音は静かで不規則。
「なあ、目見えてるんだろ!なんだそのダサい眼鏡。」
 たっくんかな。いつもちょっかいをかけてくる。どんな顔をしてるんだろう。意外とカッコよかったりして。
「何笑ってるんだ。ダサメガネ。」
「やめなよ。さえちゃん嫌がるよ。」
 私を庇ってくれるのは、奈苗ちゃんだけだよね。
「ありがとう。奈苗ちゃん。」

 学校終わった。早く帰ろう。
「小林さん。お兄さんが迎えに来ましたよ。」
 お兄ちゃんの車に乗り込むと、必ずタバコの臭いがする。いつも迷惑かけてごめんなさいって、言いたいんだけどね。車の中では無言だから、言う機会を失っちゃう。でも、言いたくないな。だって、お兄ちゃんの足音、悪意たっぷりなんだもん。優しそうなふりをして、きっと何か企んでる。
『ガチャ』
 家の玄関のドアが開く音と違う。別の場所に来たみたい。
「はい、家に着いたよ。階段あるから気をつけてね。」

8/18/2025, 1:11:54 AM

終わらない夏
※長いので読みたくない人は飛ばしてください。

 去年の冬に、飢え死にしかけている子供の狼を見つけた。しかし親の姿はどこにもなく、近くには寂れた小屋があった。
 俺は、鹿の罠を仕掛けたところを確認しにいったのだが、まさか狼の子供がかかっているとは思いもしなかった。
 狼を食べる…というのはやはり嫌悪感がある。それに、子供だ。可哀想に思えた。持っていた非常食のビーフジャーキーを与えたが、食べる気配すらない。相当衰弱しているようだ。
 一時間ほど悩みに悩んで、その狼を連れて帰った。家族の反応は想像通りだった。汚いだの、捨ててこいだの、この子の気持ちを考えない自己中心的な理由だった。
 結局、俺も追い出されてしまった。自分主義な奴らだよな。稼いでるのは俺だけだから、金だけ家族で共有して俺は物置き倉庫で晩飯。まあ、俺は優しいから気にしてないけど。
 拾ってきた狼はすくすくと成長した。だいぶ体調も戻ったようだ。
 その子は真っ白な毛色をしていて、絶滅したはずの山犬に似ていると思った。瞳は透き通った青色で、氷の膜を張っているようで、だからヒョウ(氷)と名付けてみた。
 春になって、桜も一緒に見に行った。なかなか身体が大きくならないヒョウを抱っこして。通りすがる人は俺を見て逃げるように去っていった。獣でも見るような目で俺たちを見ていた。ヒョウは萎縮しているようだった。
 しかし最近、あの子がなんだか元気がないように感じて動物病院に二時間かけて、車で向かった。病気にかかっていたようだった。五月の末にそう判明した。
 薬や生活習慣の改善のためにだいぶお金がかかってしまった。どんどん痩せていくヒョウは春のときよりも身体が小さく見えた。
 そして、夏になった。外を出歩くことができず、プールに入れてあげられる状況じゃなかった。家族も俺の元気がないのを心配してくれて家にあがらせてもらえた。妻の作る料理はとても懐かしかった。ヒョウなんて、拾ってこなければよかったのか、そう頭をよぎって、とっさに忘れようとした。
 小屋に戻ると、死んだようにヒョウが寝ていた。その二日後にあの子は息を引き取った。終わるはずの夏は永遠に終わらないままになった。その次の日、初めてヒョウと会った場所の寂れた小屋の近くに埋めてあげた。
 しかし、あの小屋が気になってしまい、中をのぞいた。そこには、ヒョウを抱く女性が写っていた。あんな幸せそうなヒョウを見たことがなかった。女性はどこへ行ったのか気になったが、聞くことはできないと村に戻った。
 それから、夏と冬には必ずあの場所に来ることにしている。

Next