リル

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終わらない夏
※長いので読みたくない人は飛ばしてください。

 去年の冬に、飢え死にしかけている子供の狼を見つけた。しかし親の姿はどこにもなく、近くには寂れた小屋があった。
 俺は、鹿の罠を仕掛けたところを確認しにいったのだが、まさか狼の子供がかかっているとは思いもしなかった。
 狼を食べる…というのはやはり嫌悪感がある。それに、子供だ。可哀想に思えた。持っていた非常食のビーフジャーキーを与えたが、食べる気配すらない。相当衰弱しているようだ。
 一時間ほど悩みに悩んで、その狼を連れて帰った。家族の反応は想像通りだった。汚いだの、捨ててこいだの、この子の気持ちを考えない自己中心的な理由だった。
 結局、俺も追い出されてしまった。自分主義な奴らだよな。稼いでるのは俺だけだから、金だけ家族で共有して俺は物置き倉庫で晩飯。まあ、俺は優しいから気にしてないけど。
 拾ってきた狼はすくすくと成長した。だいぶ体調も戻ったようだ。
 その子は真っ白な毛色をしていて、絶滅したはずの山犬に似ていると思った。瞳は透き通った青色で、氷の膜を張っているようで、だからヒョウ(氷)と名付けてみた。
 春になって、桜も一緒に見に行った。なかなか身体が大きくならないヒョウを抱っこして。通りすがる人は俺を見て逃げるように去っていった。獣でも見るような目で俺たちを見ていた。ヒョウは萎縮しているようだった。
 しかし最近、あの子がなんだか元気がないように感じて動物病院に二時間かけて、車で向かった。病気にかかっていたようだった。五月の末にそう判明した。
 薬や生活習慣の改善のためにだいぶお金がかかってしまった。どんどん痩せていくヒョウは春のときよりも身体が小さく見えた。
 そして、夏になった。外を出歩くことができず、プールに入れてあげられる状況じゃなかった。家族も俺の元気がないのを心配してくれて家にあがらせてもらえた。妻の作る料理はとても懐かしかった。ヒョウなんて、拾ってこなければよかったのか、そう頭をよぎって、とっさに忘れようとした。
 小屋に戻ると、死んだようにヒョウが寝ていた。その二日後にあの子は息を引き取った。終わるはずの夏は永遠に終わらないままになった。その次の日、初めてヒョウと会った場所の寂れた小屋の近くに埋めてあげた。
 しかし、あの小屋が気になってしまい、中をのぞいた。そこには、ヒョウを抱く女性が写っていた。あんな幸せそうなヒョウを見たことがなかった。女性はどこへ行ったのか気になったが、聞くことはできないと村に戻った。
 それから、夏と冬には必ずあの場所に来ることにしている。

8/18/2025, 1:11:54 AM