足音
あれは、お兄ちゃんの足音だ。こっちに近づいてくる。
「さえ、朝ご飯だぞ。テーブルに行こう。」
「うん。」
朝ご飯は、何だろう。甘い味噌の香り。西京焼きかな。ってことは、和食?
「私、魚の骨苦手なんだけど。」
「サワラ、苦手か?」
そう言われて、とっさに口にサワラを放り込んだ。
「おはよう、さえちゃん。今日は空真っ青だよ。」
「やっぱりそうなの?なんか青空っていいね。」
学校は人がたくさんいる。遠ざかっていく足音、チョークで黒板に書く音、友達のひそひそ話。
その中でも足音には、悪意がよく現れる。悪意のある人が近づいてくるとき、足音は静かで不規則。
「なあ、目見えてるんだろ!なんだそのダサい眼鏡。」
たっくんかな。いつもちょっかいをかけてくる。どんな顔をしてるんだろう。意外とカッコよかったりして。
「何笑ってるんだ。ダサメガネ。」
「やめなよ。さえちゃん嫌がるよ。」
私を庇ってくれるのは、奈苗ちゃんだけだよね。
「ありがとう。奈苗ちゃん。」
学校終わった。早く帰ろう。
「小林さん。お兄さんが迎えに来ましたよ。」
お兄ちゃんの車に乗り込むと、必ずタバコの臭いがする。いつも迷惑かけてごめんなさいって、言いたいんだけどね。車の中では無言だから、言う機会を失っちゃう。でも、言いたくないな。だって、お兄ちゃんの足音、悪意たっぷりなんだもん。優しそうなふりをして、きっと何か企んでる。
『ガチャ』
家の玄関のドアが開く音と違う。別の場所に来たみたい。
「はい、家に着いたよ。階段あるから気をつけてね。」
8/19/2025, 1:07:09 AM