堕なの。

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2/9/2024, 11:34:10 AM

◤造花◢

心の花のようだ。君を見て、そう思った。

別に、何か特別なことがあったわけではなく、ただ、君の歪さは私の目を引いた。其の歪さの訳も分からず、認識だけをしていた。

良い人だ。誰に対しても優しく、見捨てず、自己犠牲精神も強い。私なんかよりよっぽど聖人で、どうしようもなく気持ち悪い。

「よく頑張ったね」

少年を励ます君の横顔は、やけに綺麗だった。そして、少年がいなくなった途端に、その表情は抜け落ちた。なるほど、と。君はやけに偽善的だ。本心からの善意を、まるで偽善的に熟す。何方にせよ、君は善人だ。そんな結論を抱いた。

それならば、君が私の部下でなくなるときは、両手いっぱいの花束をやろう。ムカつくほどに綺麗な造花の束を。


テーマ:花束

11/24/2023, 8:33:05 AM

◤告白が招いたもの◢

ベッドに沈む。ふかふかで高級なそれで見る夢は、悪夢だった。延々と、訳の分からない暗い穴に落ちていくのだ。底も見えない上も見えない。そんな穴の中。

いや、底も上も変わりないのだとしたら落ちていくという表現は正しくないのかもしれない。実際、物理法則など完全に無視したゆっくりとしたスピードで身体は沈んでいく。

いつもは、目が覚めるまでこのままなのだ。だが今日は違った。わたしの目の前に現れたのは一つのビデオだった。

「あの、付き合ってください」
「ごめんね」

あの日私が断った告白の場面だった。特に何も面白くないそれから目が離せない。

「告白されたんだけど」
「えー、キモ」

これは友だちにそれを伝えるシーン。他意はなかった。ただ、いつもその日にあったことを報告するように、この告白も報告した。

「告白するなんて烏滸がましい」
「学校に来るな」

これは彼の下駄箱だ。そこに入っていたのは罵詈雑言の書かれた手紙。

「アイツこの学校から追い出さなくちゃ」
「手を出さないという協定を知らなかったわけではないでしょうし」
「知らなくても有罪だね」

あれは、私の友だち。私の友だちがこんなことをしたというのだろうか。いつも優しいあの子たちが。いや、いつも優しいのは私に対してだけだったのだろう。そんなことも知らず、私は彼を追い詰めて行ったのか。

ああ、堕ちていく。


テーマ:落ちていく

11/20/2023, 10:09:52 PM

◤僕と君◢

子どもの頃の宝物を思い出して欲しい。キラキラとした石だろうか、たくさんのカードだろうか。それが今も宝物だという人はどれ程居るのか考えてみれば、極少数派だ。

僕はどうかって。勿論、変わっていないからこの質問をしたんだよ。僕は大切なものは自分の手の中に閉じ込めておきたい質だから見せてあげることは出来ないんだけど。

どうしてもダメか?

ダメだね。あれはもう僕のものだ。誰にも渡さない。

噂?ああ、少女が行方不明になった事件かい。非常に痛ましい限りだね。早く見つかることを祈っているよ。

やっと帰った。たぶんアイツら僕のこと疑ってやがる。幼馴染だって全てを知ってるわけでは当然ないんだからやめて欲しいよね。

ん?出してって?

出すわけないじゃん。君は僕のものだよ。それにそうやって、何とか抜け出そうとして、でも無理で絶望する顔も可愛いよ。


テーマ:宝物

11/20/2023, 7:40:10 AM

◤火を灯した◢

私の親友の心に宿るのは業火だ。絶対にやり遂げると誓った使命感がずっと燃え盛り続けている。自分とは違うと、常に思わされている。

「そんなことないよ」

そんな一言が私の心を抉ることなど、ずっと知らないままなのだろう。優しくて、鈍感で、人を意の外で傷つけて、その度に直ぐに謝れる彼女は多分一生気づかない。私みたいな、隠すことが得意な人間は、傷ついたことをアピールしないから。

でも、なんでそれでもそばに居るかって。彼女が傷つけていることを認識しないまま、その傷ついた心を救ってしまっているからに他ならない。ほら今だって。

「業火っていうのは分かんないけど。冷ちゃんにだって火は灯ってるよ。キャンドルみたいな小さな火かもしれない。それでも優しくて温かくて思いやりに溢れた火だよ」

だから彼女の傍から離れられない。


テーマ:キャンドル

11/18/2023, 10:18:45 PM

◤失恋していた◢

思えば、失恋はずっと前からしていたのかもしれない。別れようと言う彼女を目の前にそう思った。好きになって、告白して、そのときから彼女の気持ちが俺の元になかったとしたら、それは最早失恋と同義である。

「同情?」

彼女は答えない。

「哀れみ?」

何故か彼女が傷ついた顔をして俯いた。傷ついているのはこちらだというのに、何故そんな顔をするのか。寧ろ好きでもない男と別れられて清々するのは其方ではないのか。

「嘘が上手だったんだね」

彼女と紡いだたくさんの想い出が頭に溢れる。あれら全ても嘘だったというなら、とんだペテン師である。俺では敵わない。

こうなってしまえば、別れの言葉すらも要らない。俺は何を告げるでもなく彼女から離れた。

「ごめん」

彼女のか細く震えた声と目尻から零れた一粒の涙に俺は気づけなかった。


テーマ:たくさんの想い出

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