堕なの。

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◤失恋していた◢

思えば、失恋はずっと前からしていたのかもしれない。別れようと言う彼女を目の前にそう思った。好きになって、告白して、そのときから彼女の気持ちが俺の元になかったとしたら、それは最早失恋と同義である。

「同情?」

彼女は答えない。

「哀れみ?」

何故か彼女が傷ついた顔をして俯いた。傷ついているのはこちらだというのに、何故そんな顔をするのか。寧ろ好きでもない男と別れられて清々するのは其方ではないのか。

「嘘が上手だったんだね」

彼女と紡いだたくさんの想い出が頭に溢れる。あれら全ても嘘だったというなら、とんだペテン師である。俺では敵わない。

こうなってしまえば、別れの言葉すらも要らない。俺は何を告げるでもなく彼女から離れた。

「ごめん」

彼女のか細く震えた声と目尻から零れた一粒の涙に俺は気づけなかった。


テーマ:たくさんの想い出

11/18/2023, 10:18:45 PM