#3 こんな夢を見た
こんな夢を見た。
夕暮れの駅で、なぜか待ち合わせの約束をしていないのに、同じベンチに座っている夢。
会話は少なく、電車の音だけが遠くで響く。隣にいるのが当たり前みたいで、理由を考える必要もなかった。
手が触れそうで触れない、その距離がやけに現実的だった。
発車ベルが鳴る。
どこへ行く電車かは分からない。でも立ち上がらず、ただ一緒に時間が過ぎるのを待っていた。
目が覚めたとき、胸に残っていたのは名前のない温度だった。
きっとあれは、失くした過去じゃなく、まだ来ていない未来の夢だ。
#2 タイムマシーン
古びた展示室の隅に、そのタイムマシーンは置かれていた。動かない模型だと分かっているのに、ふたりはしばらく前に立ち尽くす。
「戻りたい時間ってある?」
そう聞かれて、少し考える。
昨日でも、数年前でもない。
「今が良いな」
そう答えると、彼は小さく笑った。
もし本当に時間を戻せたら、違う言葉を選んだかもしれない。違う距離感で、違う結末もあったかもしれない。でも、彼の隣にいるこの瞬間だけは、変えたくなかった。
展示室を出ると、夕暮れが広がっていた。
タイムマシーンはもういらない。この時間が、十分に大切だった。
#1 特別な夜
駅前の時計が二十時を指したとき、街は少しだけ静かになった。仕事帰りの人波が引き、イルミネーションの光が路面にやわらかく滲む。
コートの襟を直し、改札の外で立ち止まる。今日は、特別な夜になる——そう信じたい理由があった。
「待たせた?」
振り向くと、小走りで近づいてくる彼女。息を整えながら、照れたように笑った。その笑顔に、胸は少し早く鳴った。
ふたりは並んで歩き出す。会話は取りとめもないことばかりだ。最近観た映画、寒くなったねという話…。
けれど、言葉の合間に流れる沈黙が不思議と心地よかった。
川沿いの遊歩道に出ると、灯りが水面に揺れていた。
川の向こうで、花火が一発だけ上がる。きっと偶然だろう。それでも、胸の奥で小さく願う。
——この時間が、長く続けばいい。
帰り道、改札の前でふたりは立ち止まる。
「また、会える?」
彼女の声は静かだった。
「うん。次は、もっと寒い夜に」
そう答えた。
電車のドアが閉まる。窓越しに手を振ると、彼女も同じように手を振った。
何気ない一日かもしれない。それでも、僕にとっては「特別な夜」になった。