「この泥棒猫!」
「…出会い頭に水を掛けるのは如何なものかと思いますわ」
「白々しいわね。人の男に手を出しておいて!とぼけるつもり?」
「…身に覚えはないのですが、『人の男』とはどなたのことでしょう」
「一昨日、まさにここで!アンタ私の彼氏とデートしてたの知ってるんだから!」
「私の…彼氏」
「心当たりあるから私の誘いに乗ったんでしょ!?水かける程度で許してやるんだから、今後もう彼とは会わないで!」
「それは…無理ですわね」
「はぁ!?アンタ何様のつもり?私よりババアなクセに身の程知りなさいよ!私が彼の彼女だって言ってんの!!」
「ですが、わたくしは妻ですし同居も致しておりますので毎日顔を合わせるのは当たり前ですわ」
「え…」
「てっきり謝罪していただけるのかと思っていたのですけれど…出し抜けに暴行妄言暴言を受けるとは予想外でしたわね」
「な…はあ?」
「夫が選ぶくらいですから、わたくしほどでなくとも聡明であると考えていたのですが…甘かったようですわね」
「あ…あ…」
「わたくしはね、夫が妻以外に恋をしても良いと思うの。倫(みち)を外さなければ、ね」
「……っ」
「ただ、薬を使ってまで身体の関係に持ち込むのは流石に犯罪ですわよ?ですから夫が別れを告げましたでしょう?」
「で、でも…だって結婚なんてそんな…」
「おばかさんですわね」
「!!」
「毎度太陽の下で逢瀬出来ない相手が潔白だなんて、そんなわけありませんでしょう?」
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ええ確かにそうですね
数あるシチュエーションの中でもトップクラスであることは間違いないでしょう
それはフェチマスターである私が保証します
裸エプロンと同じくらい素肌にセーターはエロいと
ああもちろん大きめのセーターで下は何も身に付けないのはマストですよ
異論ありますか?まあそれも理解いたしましょう
どちらにせよ一番重視されるのは「誰」が身に付けるかですからね
よろしければ是非あなたも一度お試しください素肌セーターを
そいつに言わせると、恋愛はゲームなのだそう。
目には見えない好感度をより効率的に上げて、相手を自分の虜にさせる。そんなゲーム。
かくいう自分もそのゲームに負けてまんまと恋に落ちてしまったのだけど。
「初めましてこんにちは。今ちょっと時間いいかな?少しでいいから君の時間をわけてもらいたいんだけど」
人目を引く華やかな笑顔に、控えめなようでいて有無を言わせない言葉選び。
「…運命だって思ったんだ。なんて言ったら、君は困るかな?」
さりげなく添えられた手と濡れた瞳で見上げられた上でこの一言。
第三者として聞くと陳腐でしかない言葉なのに、何故こうも容易く落ちていくのか。
今日もゲームは続いていく。
そいつが飽きるまでのインチキ恋愛ゲームが。
何故結婚しなければならないのかと問われたら、特に理由などないので返事に困るなぁと男は思った。
何故結婚したくないのかという問いかけに、明確な理由はあるが言いたくないなぁと女は思った。
「……」
「……」
睨み合う恋人達。
先程までの甘い時間はどこへやら。
「お決まりですかー?」
空気を読まずに注文をとりにきた店員がにこやかに現れる。
「本日のおすすめは『シェフ特製新婚夫婦限定パスタ特製ケーキ付き』になりますー」
「「じゃあそれで」」
双方思いはそれぞれありはしたものの、結局二人はその後夫婦になった。
それは信頼の証だったのだろう。
必ずなんとかしてくれるという絶対の信頼。
「どうすればいいの?」
それに俺が応えると、アイツは素直に従ってみせた。
どんな指示も命令も必ず完遂して「次は」と問いかける姿は忠実な犬を思わせた。
どれだけの年月そんな日々が続いただろう。
やがて俺は王になった。
変わらずアイツは隣で尋ねる。どうすればいいと。
かつて信頼だったそれは約束となり誓いとなり、終いには脅迫で呪いになった。
かつて同じ家で過ごした家族も、同じ飯を食った仲間も、苦言を呈した部下ももういない。
全てアイツが奪った。俺が奪わせた。
「どうすればいい?」
俺が聞きたい。もう誰にも聞くことはできないけど。だから。
「俺を殺してお前も死んでくれ」
真っ赤な視界に最後に映ったのは、幼い頃以来に見たアイツの天使のような微笑み。そして、
「ありがとう」