繋がってるよ。ずっと、ずっとね。
「はなれたくないなぁ」
舌ったらずな言葉が耳をくすぐる。
甘ったるい猫撫で声。ベッドの上でしか聴けない声。
「じゃあまだこのままでいる?」
含み笑いで尋ねてみると、わかってるくせにと拗ねた顔をしてみせる。
「じれったいシゲキじゃモノ足んないのぉ。いっぱいいっぱい、たぁっぷりの愛を注いで?」
蠱惑的な笑みを浮かべてゆるゆるとうねりながら強請るように熱情を搾り上げる様は、正に悪魔的。
堪えようと耐える姿を嘲笑うかのようにぎゅうぎゅうと締め付けて離さないかと思えば、急に力を抜いてぺったりと全身でもたれかかってきたので、その緩急にとうとう陥落した。
「あー…どくどくしてるー…」
耳元と下半身のどちらのことを言っているのか、それとも両方なのかはわからない。
わかっているのは、これでおしまいということだけ。
「はい、じゃあおしまい。次またお金出来たら予約ちょーだいね」
あっさり身体を離して簡単に身支度を整えると、からりと何事もなかった顔で笑う。
「心を込めた接客が自慢の信頼と実績のサービス業なので心はあげられないけど、お金がある限りずっとずっと繋がってるあげられるからね」
『心と心』『愛を注いで』
ポーカーフェイスは得意だったので、気付かれることはないと思っていた。
穏やかで優しく微笑んでいれば、いつものようにやり過ごせると思っていた。
「ものすごく怒ってるクセに、何でもないフリするんだね」
「…なんのことでしょう?」
とぼけてみせても『わかってる』態度が癪に障ったので、早足でその場を離れる。
「仲間の為に怒ってくれてるんだから、別に隠さなくたっていいのに」
背後の呟きは、こちらの耳が赤くなっていることにすら気付いているようだった。
『仲間』『何でもないフリ』
7
もっともっと、そばにいたかった。
もっともっと、してあげたいことも、してもらいたいこともいっぱいあった。
どれだけ長生きしたって、後悔することはいっぱいある。
だからなるべくやりたいように生きてきたし、いつ死んでも悔いはないって思ってたのに、結局最期に色んなことを悔いてしまうのは人の性なのだろう。
怖がる自分と手を繋いでくれたのは、最期の優しさ。
縁もゆかりもないのに、ずっと悪態ばかり吐いていたのに、その人は目に涙を浮かべて唇を噛み締めてくれてた。
湿っぽいのは嫌いだと言っていたのを覚えてくれてたんだろう。
「ありがとう、ごめんね」
そういえば初めて伝えたなと気が付いたのは、世界が暗転する直前だった。
『ありがとう、ごめんね』『手を繋いで』
9
弟と二人、部屋の片隅で寄り添って縮こまって眠る。
いつ誰が近付いてきても素早く動けるように、横になることはしない。
寒くはないだろうかと拾ったばかりの薄汚れた薄い毛布を弟の肩まで覆うと、少し身じろぎをした。
野宿続きだった為、少しでも雨風が凌げる場所が確保出来たのは良かったものの、それでもまだ小さな弟には過酷だ。文句ひとつ言わないけれど。
「う…あ…」
熟睡出来ないせいだろう。
目を閉じたまま悪夢に魘される弟に「大丈夫だよ」と囁きながら体温を分け与える。
「…」
眉根を寄せたままだったがそれでも静かになったことに安堵して、はたと今に自分の言葉を思い返して苦笑する。
一体何が大丈夫だというのか。
この小さな手足では何ひとつ守れる保証もないというのに、勢いだけで混乱する弟をあの場所から連れ出して。
誰か大人に頼れば良かっただろうか?
けれどそれこそ助けになってくれる保証もないのに、そんなことは出来なかったのだ。
「…はやくおとなになりたい」
白い吐息と一緒に吐かれた言葉は虚しく響いて、どうにもならない現実に少しだけ泣いた。
11/400
そんじゃさ、ゲームしよう。逆さまゲーム。
これからお互いに質問して、逆のことを答えるゲーム。
「何よ急に。…別にいいけど」
じゃあ、俺のこと好き?
「は!?…ハァァァ!?」
ほれ、ゲームゲーム。ちゃんと言えなきゃ負けだぞ?
「そ…そんなの…」
好きって言っても嫌いって言ってもいーんだぜー?
「…っ、…〜〜〜〜っ!!!ズルいっ!」
なにが?
「どっちに答えても何も言わなくても負けってことでしょ?ズルい!卑怯者ーっ!」
あーあ、なんで俺こんな天邪鬼で負けず嫌いなヤツに惚れたんだかなぁ。
「……まだゲーム中?え、どっち?どっちよ??」
9