無名庵

Open App
4/5/2025, 2:27:00 PM

好きだよ

「…好きだよ」
何となく彼に言ってみた。いや、言いたくなったのだ。彼の端正な横顔と艶やかな髪。彫刻を思わせる肉体と思わず耳を傾けたくなる、低く優しい声。その全てが彼の意思によって私に向けられると思うと、声を出さずにはいられなかった。
 彼は少し目を見張り、くしゃっとした笑顔を見せた。
「知ってる」
彼は私の頭をわしゃわしゃ撫でながら言った。そして私の額に優しくキスをした。
 今夜は寝られなさそうだ。

4/3/2025, 3:04:36 PM

君と

「君と同じ時間を歩みたいんだ。…どうしたらいいかな?」
私はとうとう観念して直接本人に聞くことにした。聞く決断をしたのはいいものの、やはり情けなく思われて最後の方は掠れるような声しか出なかった。それでも彼女は私の意図を察したらしく、口元に妖艶な弧を描いた。
「一緒だなんて、そんな。無理ですよ。無理。私は私。貴方は貴方ですもの」
彼女の言う通りだった。淀みなく発せられた彼女の言葉は、私の体に入り込み血液と共に体全身に行き渡った。指先まで彼女の言葉が行き届く間、私は考えた。
 彼女は正しい。私は間違っている。けれど、けれども彼女は、私の、
「君は、私の…」
「希望?」
私はがばっと顔を上げた。驚きと恐怖で頬が引くつくを感じた。この感情を知られてしまっては私はもう彼女の側には居られなくなる、何となくそう感じた。いや、そうに違いなかった。私は彼女の次の言葉を待った。私の目はもう、彼女の口元から動かせなくなっていた。
「ほら、言った通りでしょう?私たちは同じ時間を歩めないと。憧れなど理解からは程遠い感情なのよ」
そう言うと、彼女は此方を振り向く事もなく立ち去っていった。

4/2/2025, 2:50:02 PM

空に向かって

今日は何となくいい日なんだ。

だから、空に向かって叫んでやるぜ!

普段は恥ずかしくて言えないけど、

みんなのこと大好きだ!いつもありがとう!

こんな僕だけど、何の取り柄もない僕だけど、

それでも頑張ろうって思ってる僕が好きだ!

泥臭い努力が大好きだ!

この世界が大好きだ!

3/31/2025, 2:01:11 PM

またね!

 夢を見た。何と言うこともない公園の道を、木漏れ日に照らされながら私達はゆっくりと歩いていた、そんな夢だった。ふと顔を上げれば、桜の蕾がふっくらと大きくなっており、目を離した隙にもう咲いてしまいそうな程だった。
「季節も春だねぇ」
「そうだね」
こちらの様子に気づいたのか、彼女が言った。辺りを見渡せば、桜だけでなく土筆なんかも生えており新たな命の芽吹きを感じさせた。私の動きに合わせ、彼女も地面を見つめたが、その瞳はどことなく冷たい。
「行こっか」
そう彼女が言うので、黙って従った。そうだ。私達にはやるべき事があると。
 公園の正規の道から外れ、私達は森林を歩いていた。歩く度に落ち葉がザクザクと音を立てた。優しかった木漏れ日も、今は陽を遮りすぎて不気味に思えるほどだった。鳥の鳴き声が私達を嘲笑っているように感じた。
 しばらく歩いていると、開けたところに出た。木こそは生えているものの、太陽が真上から降り注ぐのを見る事ができるほど、視界は良好だった。
「この辺かな」
彼女が背負っていた荷物から、縄を取り出した。私も、確かにあれなら大丈夫そうだと思った。彼女は縄を木にかけ、自身の首を通すための輪っかを作った。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
「…あ、あの、一人で行かないでね。待っててよ?」
「ああ、待ってる。道は分かるのかい?」
「うん、大丈夫。分かるから」
そう言うと、彼女は迷わず首を吊った。私は木に腰掛け。彼女を待った。目を閉じて、彼女の声を思い出した。鈴の音のような声と、細い体。その二つが私の頭の中で、重ねっては解け、重なっては解けと繰り返しているうちに、だんだんと眠くなってきた。もう諦めて寝てしまおうかと思った時に、ガラガラと何かが落ちる音がした。見てみると、彼女の骸が縄から落ちていた。
「おかえり」
彼女の頭蓋を抱き抱え、私は彼女に囁いた。

3/29/2025, 1:03:36 PM



ああ、泣いてしまうなと思った。ほんの刹那、私は目頭を抑えようと右手を伸ばしかけ、やめた。そして、何を思ったか体をぐっと後ろへのけぞらせた。まるで準備体操の前後屈のような体勢になった。しかし、こればかりは気にしていられない。急な進路方向に戸惑うことなく、涙は私の睫毛に触れた後、ゆっくりと横へ流れていった。これでいいと思った。
「あんた、何やってんの」
友人が言う。
「いや、何でもない」
ただ一言答えるだけなのに、酷く時間が掛かったような気がした。

Next