無名庵

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またね!

 夢を見た。何と言うこともない公園の道を、木漏れ日に照らされながら私達はゆっくりと歩いていた、そんな夢だった。ふと顔を上げれば、桜の蕾がふっくらと大きくなっており、目を離した隙にもう咲いてしまいそうな程だった。
「季節も春だねぇ」
「そうだね」
こちらの様子に気づいたのか、彼女が言った。辺りを見渡せば、桜だけでなく土筆なんかも生えており新たな命の芽吹きを感じさせた。私の動きに合わせ、彼女も地面を見つめたが、その瞳はどことなく冷たい。
「行こっか」
そう彼女が言うので、黙って従った。そうだ。私達にはやるべき事があると。
 公園の正規の道から外れ、私達は森林を歩いていた。歩く度に落ち葉がザクザクと音を立てた。優しかった木漏れ日も、今は陽を遮りすぎて不気味に思えるほどだった。鳥の鳴き声が私達を嘲笑っているように感じた。
 しばらく歩いていると、開けたところに出た。木こそは生えているものの、太陽が真上から降り注ぐのを見る事ができるほど、視界は良好だった。
「この辺かな」
彼女が背負っていた荷物から、縄を取り出した。私も、確かにあれなら大丈夫そうだと思った。彼女は縄を木にかけ、自身の首を通すための輪っかを作った。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
「…あ、あの、一人で行かないでね。待っててよ?」
「ああ、待ってる。道は分かるのかい?」
「うん、大丈夫。分かるから」
そう言うと、彼女は迷わず首を吊った。私は木に腰掛け。彼女を待った。目を閉じて、彼女の声を思い出した。鈴の音のような声と、細い体。その二つが私の頭の中で、重ねっては解け、重なっては解けと繰り返しているうちに、だんだんと眠くなってきた。もう諦めて寝てしまおうかと思った時に、ガラガラと何かが落ちる音がした。見てみると、彼女の骸が縄から落ちていた。
「おかえり」
彼女の頭蓋を抱き抱え、私は彼女に囁いた。

3/31/2025, 2:01:11 PM