無名庵

Open App



ああ、泣いてしまうなと思った。ほんの刹那、私は目頭を抑えようと右手を伸ばしかけ、やめた。そして、何を思ったか体をぐっと後ろへのけぞらせた。まるで準備体操の前後屈のような体勢になった。しかし、こればかりは気にしていられない。急な進路方向に戸惑うことなく、涙は私の睫毛に触れた後、ゆっくりと横へ流れていった。これでいいと思った。
「あんた、何やってんの」
友人が言う。
「いや、何でもない」
ただ一言答えるだけなのに、酷く時間が掛かったような気がした。

3/29/2025, 1:03:36 PM