『朝日の温もり』
ああ、まぶしいなあ。
こんなにきれいなら、ずっとみていたい。
でも、ぼくにはにあわない。
このあたたかさも、ぼくにはにあわない。
僕には、夜の冷たさが似合っている。
『岐路』
今までずっと、あの人の言うことを聞いてきた。
それが正解だと思っていたから。
でも、これは、流石に聞き入れられない。
そう思っているのに、拒否することができない。
ここであの人に逆らったら、どうなるのだろう。
ここから先、物事を自分で決めて生きていける自信がない。
何時間も悩んだけれど、結局ぼくは、あの人に従うことにした。
だって、そうした方が楽だから。
今さら生き方を変えられやしない。
ぼくは、キッチンから包丁を持ち出し、彼女のマンションへと向かった。
『世界の終わりに君と』
眼下に広がる地獄絵図を見ながら、大きなため息を吐く。
呆気なく終わって行く世界は、これ程までにつまらないものだったのか。
「何してるの?」
ふわりと隣に寄って来たきみに、思わず笑みがこぼれる。
「思っていたよりも、つまらなかったよ」
「あら、こんなに素敵な景色なのに?」
くすくすと楽しそうに笑うきみが、とても愛おしい。
「僕と、一曲踊っていただけますか?」
手を差し伸べれば、きみは嬉しそうに僕の手を取ってくれた。
「もちろん。曲が終わるまで、踊りましょう」
人々の断末魔の叫びを聞きながら、僕たちは、世界の真ん中で踊り続けた。
『最悪』
「なに、してるの……?」
ああ、見られてしまった。
彼女にだけは、知られたくなかったのに。
「えっと、これは、その……」
自分の手にあるものを、必死に隠そうとしたけれど、その前に彼女に奪われてしまった。
「もしかして、指輪?」
箱の大きさと質感で悟ったのだろう。彼女は僕が隠したかったものを言い当てた。
もう、最悪だ。
せっかくサプライズで渡そうと思っていたのに。
「本当は、明日渡そうと思ってたんだけど……」
「明日?」
「付き合って、三年目の記念日だから」
プロポーズの言葉も、シチュエーションも、指輪を渡すタイミングも、完璧に決めていたのに。
こんな形で彼女にバレてしまうなんて。本当に最悪だ。
「じゃあ、待ってる」
「へ?」
「明日、楽しみにしてるね」
にっこりと笑って、指輪を返してくれた彼女に、愛しさが込み上げて、思わず力強く抱きしめた。
『誰にも言えない秘密』
ベッドですやすやと気持ち良さそうに眠る彼の髪を、優しく撫でる。
何度も染めている髪は、傷んでいてパサパサしている。
その髪を思う存分撫で、そのまま頬に指を滑らせる。
つるりとした頬の感触を楽しんだあと、そっと自分の唇を近付ける。
これが、私のささやかな楽しみだ。
私が毎日、眠っている彼の髪を撫で、頬に口付けしていることを、きっと本人は知らないだろう。
仕事へ行く前や、仕事から帰って来た時、彼が眠っていれば必ずこの行為をしている。
「いつも早々と帰るけど、何か用事でもあるの?」
「ペット飼ってるんです」
「えー!そうなの?何飼ってるの?」
「犬……ですね」
「そうなんだ、写真とか無いの?」
「すみません。最近飼ったばかりで、写真無いんです」
「そっか、じゃあ今度見せてね」
「はい」
「あの子の家って、ペット禁止じゃなかった?」