酸素不足

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6/4/2024, 12:45:05 PM

『狭い部屋』


カチャリと音がして、扉が開く。
ゆっくりと開いた扉から、待ち焦がれた人物が顔を覗かせる。

「ただいま」
「おかえり。遅かったね」
「ごめんね。おばさんに捕まっちゃって……」
「そうだったんだ。お疲れ様」

いつもより、十五分も遅く来た彼は、疲れているようだった。
頭を撫でてあげれば、にっこりと暖かな笑みを浮かべた。

「もう少しだから。あと少しで、ここから出られる」
「うん」
「それまで、耐えてくれる?」
「もちろん。約束したでしょ?」
「ありがとう」

私を優しく抱きしめた彼は、泣きそうな顔をしながら、部屋から出て行った。
私はまた、狭くて薄暗い部屋に独りになった。
でも、これもあと少しの辛抱。
彼が、この物置部屋から、私を連れ出してくれる。

きっと、すぐそこまで来ている幸せな‎未来を思い描きながら、ゆっくりと目を閉じた。
部屋に、煙が充満していることにも気づかずに――。

6/3/2024, 1:30:51 PM

『失恋』


「ごめん……」

あなたの小さな声で、たった一言で、この恋が終わった。

6/2/2024, 2:03:17 PM

『正直』


「怒らないから、正直に言って」

これを言われるのは、もう何回目だろうなあ。
このセリフは、聞き飽きちゃった。

お母さんこそ、「何を言ったって、怒るからね」って、正直に言ってくれたらいいのに。

6/1/2024, 1:41:06 PM

『梅雨』


「雨音が、響いていますね」
「え……」

彼女から発せられた言葉の意味が分からないから、僕は驚いたのではない。

今は梅雨時期で、いつもなら雨が降っている。
けれど、今日の空は、束の間の晴れ間を見せている。
雨音が響くわけがない。
つまり、彼女は、別の意味を含めて言っているのだ。

――あなたを愛していました。

あの言葉には、この意味があるに違いない。

彼女は、僕の行きつけのカフェの店員だ。
そこまで多くの交流は無いが、全く知らないというわけでも無い。
ただのカフェの店員と客の関係だ。
そのはずだった。
けれど、彼女は、ああ言ったのだ。
いつから、僕に好意を寄せていたのか。
全くそんな素振りも見せなかった。いや、僕が気が付かなかっただけかもしれない。
頭の中で様々な考えが渦巻く。

ちらりと彼女の顔を見ると、困ったように眉尻を下げて、緩やかな笑みを浮かべていた。

「早く、やむと良いですね」
「……っ」

彼女のぎゅっと力の入った唇を見て、申し訳ない気持ちになる。
ごゆっくりどうぞ、と言って去る彼女を見ることもせず、運ばれてきたコーヒーに口をつける。
苦味を無理やり胃に流し込んで、左手の薬指にそっと触れた。

5/31/2024, 2:45:18 PM

『無垢』


あなたのその無垢な心を、穢してしまいたい。

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