酸素不足

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『狭い部屋』


カチャリと音がして、扉が開く。
ゆっくりと開いた扉から、待ち焦がれた人物が顔を覗かせる。

「ただいま」
「おかえり。遅かったね」
「ごめんね。おばさんに捕まっちゃって……」
「そうだったんだ。お疲れ様」

いつもより、十五分も遅く来た彼は、疲れているようだった。
頭を撫でてあげれば、にっこりと暖かな笑みを浮かべた。

「もう少しだから。あと少しで、ここから出られる」
「うん」
「それまで、耐えてくれる?」
「もちろん。約束したでしょ?」
「ありがとう」

私を優しく抱きしめた彼は、泣きそうな顔をしながら、部屋から出て行った。
私はまた、狭くて薄暗い部屋に独りになった。
でも、これもあと少しの辛抱。
彼が、この物置部屋から、私を連れ出してくれる。

きっと、すぐそこまで来ている幸せな‎未来を思い描きながら、ゆっくりと目を閉じた。
部屋に、煙が充満していることにも気づかずに――。

6/4/2024, 12:45:05 PM