『最悪』
「なに、してるの……?」
ああ、見られてしまった。
彼女にだけは、知られたくなかったのに。
「えっと、これは、その……」
自分の手にあるものを、必死に隠そうとしたけれど、その前に彼女に奪われてしまった。
「もしかして、指輪?」
箱の大きさと質感で悟ったのだろう。彼女は僕が隠したかったものを言い当てた。
もう、最悪だ。
せっかくサプライズで渡そうと思っていたのに。
「本当は、明日渡そうと思ってたんだけど……」
「明日?」
「付き合って、三年目の記念日だから」
プロポーズの言葉も、シチュエーションも、指輪を渡すタイミングも、完璧に決めていたのに。
こんな形で彼女にバレてしまうなんて。本当に最悪だ。
「じゃあ、待ってる」
「へ?」
「明日、楽しみにしてるね」
にっこりと笑って、指輪を返してくれた彼女に、愛しさが込み上げて、思わず力強く抱きしめた。
6/6/2024, 12:07:20 PM