『初恋の日』
あれは、忘れもしない、夏の暑い日だった。
あなたを初めて見たのは、駅のホームでした。
前を向いて凛と立ち、電車を待つあなたに、一瞬で目を奪われました。
地上に舞い降りた天使のように、あなたは美しかった。
私は学校へ行くことも忘れ、あなたを追いかけた。
顔を見たい、もっと近くに行きたい、触れたい。
あなたを追いかけて行った先は、お墓でした。
あなたは墓前に手を合わせ、花を供えた。
「もう、二十年にもなるのね」
あなたは、そう言って微笑んだ。
――私の、大好きな顔だった。
『明日世界が終わるなら』
もし、明日世界が終わるとしたら?
うーん、やっぱり、美味しいものをたくさん食べたいかなあ。
あ、でも、綺麗な景色を見たいかも。
行きたかった所に行って、そこで美味しいものを食べて、あー楽しかった!って思いながら、終わりを迎えるの。
素敵だと思わない?
でもね、そこにあなたが居なかったら、何の意味もないの。
あなたと美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て、寄り添って終わりたい。
明日世界が終わるなら、最後まで一緒にいるのは、あなたじゃなきゃ嫌なの。
あなたと手を繋いでいたら、何も怖くないから。
終わってしまう世界も、素敵だと思えるから。
ねえ、世界が終わる時も、私と一緒に居てくれる?
『君と出逢って』
美味しいとは感じなかった食事、美しいとは思わなかった景色、感動しなかった言葉。
全てが、今までとは全く違うものになった。
君と食べる食事はとても美味しいし、君と見る景色は格別に美しい。
君から発せられる言葉一つ一つが、私の心に沁み渡る。
君と出逢ってから、私の全てが、良い方向に変わった。
私の世界は、これからもどんどん変わっていくのだろう。
そこには、必ず君の姿があるんだ。
これから先、ずっとずっと、私の隣で、私の世界を輝かせてほしい。
『耳を澄ますと』
静かだ。とても静かだ。
こんなに静かだと、耳を澄ませなくても、きみの音が聞こえる。
トクトクと、一定のリズムを刻むきみの心臓の音は、いつまでも聞いていたくなる。
けれど、この音だけでは満足できない。他の音も、聞きたくなる。
そっときみの口元に近づいて、耳を傾ける。
スースーと聞こえた音に、思わず笑みがこぼれてしまう。
ずっときみの音を聞いていたくて、独り占めしたくて、我慢できなかった。
耳を澄ませなければ聞こえないきみの音を、ぼくだけのものにしたかった。
手に入れたいと、強く願った。
綺麗な顔で、ぼくのベッドに横たわるきみの手を、そっと持ち上げて、カチャリと冷たい金属を嵌める。
ああ、これで、きみはぼくだけの音になった。
『二人だけの秘密』
どこで間違えたのだろう。
彼女の助けに応えた時か。それとも、彼女の言葉に耳を傾けた時か。
「ありがとう。あなたのおかげで、彼から解放されたわ」
にっこりと私に笑いかける彼女は、まるで女神のようだった。
いや、彼女は女神などではない。悪魔だ。
じっくりと私を支配し、ゆっくりと私を蝕んだ、悪魔なのだ。
「これは、私とあなた、二人だけの秘密よ?」
彼女が耳許でささやく。
その甘美な声に、クラクラと眩暈がする。
「大好きよ。世界で一番、愛しているわ」
彼女の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
私は考えることを放棄して、そっと目を閉じた。
足元には、私の親友が埋まっているというのに――。