『耳を澄ますと』
静かだ。とても静かだ。
こんなに静かだと、耳を澄ませなくても、きみの音が聞こえる。
トクトクと、一定のリズムを刻むきみの心臓の音は、いつまでも聞いていたくなる。
けれど、この音だけでは満足できない。他の音も、聞きたくなる。
そっときみの口元に近づいて、耳を傾ける。
スースーと聞こえた音に、思わず笑みがこぼれてしまう。
ずっときみの音を聞いていたくて、独り占めしたくて、我慢できなかった。
耳を澄ませなければ聞こえないきみの音を、ぼくだけのものにしたかった。
手に入れたいと、強く願った。
綺麗な顔で、ぼくのベッドに横たわるきみの手を、そっと持ち上げて、カチャリと冷たい金属を嵌める。
ああ、これで、きみはぼくだけの音になった。
5/4/2024, 10:20:24 AM