''愛があればなんでもできる?"
一時期流行った、二択の性格診断テストかなんかで見た質問。
答えはなんだ?
YESか、NOか。
私の答えはNOだ。
だって、今でさえ既に、私たちは互いを愛すだけ、ただそれだけでボロボロになってしまっている。
お互い好きで、離れたくなくてもがいているのに、肝心なところが合わない。性別とかいうちっぽけなたたったそれだけのものが。
ただ、ただ、私たちは自分たちで築く幸せを願っているだけなのに。
世間様はどうやらそんなことを許さないようだ。
一緒にいて幸せになるどころか、二人揃って蟻地獄みたいなじわじわ迫り来る不幸に呑み込まれて行ってる。
「手を離してしまった方が楽かもしれない。」
そう思ったことが何度あったことか。
そして、それを行動に起こすのに私がどれだけの精神と気力を費やしたことか。
そんなこと思う時点で、思った時点で、彼女の手を離した時点で、私は愛を語る人間にふさわしくないのだろう。
だって、愛を目の前にしたらさっきの質問に対して、胸を張ってYESと答えきれる人がいるのだから。
そんな人とは真逆に私は、YESと答える間もなく、楽になる方法を選んでしまった。
互いが後ろ指を指されず、私でなく、彼女には違う人と幸せになる道を選んで欲しかった。そう、願ってしまった。
私には幸せにする自信が持てなかった。
この世で一番愛しい人の幸せを願って繋いでいた手をほどいた私は、ある意味、愛があって、愛のために動けたのかもしれない。
でも、どうせ愛のために動くのだったら、なんでもやるから、どうせだったら、私たちに愛する人との幸せぐらい運んで欲しかったな。
普通の幸せを。
あなたと共に育みたかっただけなのに。
愛のために、、?
お題【愛があればなんでもできる?】
19歳になる年。つい3ヶ月ほど前までは高校生で、未熟やら、まだまだ子供だとか散々言われた。
それなのに、1つ歳が変わって、立つ立場が、環境が変わったと思えば突然大人になれと急かされ始めた。
うちは昔から裕福とは言えない環境で、私には下にまだ妹も弟もいた。そもそも、家がここまで貧乏になったのは血も涙も通ってないような暴力クソ親父が負の根源であって、朝から晩まで必死になって働く母を見てたら、口が裂けても進学したいだなんて言えなかった。
アイツの元から離婚という形で逃げきれた今でも、母はお金の面で苦しみ続けている。
これ以上、私は母の重みにはなりたくなかった。
だから、進学してもいいのだと言う母の言葉を振り切って、私は高卒という立場で上京して、働き始めた。
―――責任なんて言葉が毎日のように私の肩にずっしりと乗って囁き続ける。
「早く大人になれ、もう高校生じゃない。お前は立派な大人なんだ。」と。
必死でやってるつもりなのに、仕事では小さなミスを起こしてしまう。
頭と体が別々みたいで、毎日パンクしそうで息苦しかった。
最近だって、職場で母のことを話す時につい"ママ"と言ってしまって、
「鈴木さんもう子供じゃないんだから"ママ"呼びは辞めなさいね」
なんてことを上司に、軽く笑いながら言われたばっかだった。
些細なことにですら、自分がまだまだ子供だということを思い知らされるようで嫌になる。
新しく私の家になった一人暮らしの部屋で休日はどこにも出かけることも無くそんな風に、悶々と悩む日が続いたある日、私は憂鬱な今日この日、日曜が母の日であることに気づいた。
全くの失念だ。
毎年、母の日には感謝の意を込めて贈り物をしていたというのに。
時刻はもう23時を回っていて、今日中にプレゼントを渡すなんてことはもう不可能なことに気づいた。
せめて電話口でありがとうぐらいは言おうと思い、携帯をとると、偶然にもタイミング良く母から電話がかかってきた。
「もしもし、お母さん?」
『美奈?最近連絡ないけど大丈夫?元気でやってる?』
「あぁ、ごめんね、忙しくてなかなか連絡出来なかったや。てか、ちょうどお母さんに電話しようと思ってたんだよ」
『えぇ?なんかあった?』
「違うよ、母の日だよ」
こんな時だって優しい母は、子供のことばかりだ。母の日まで忘れるなんて。私は思わず笑いながら言う。
『あぁ、そういやそうだったねぇ。すっかり忘れちゃってたわ』
「私も忘れてたんだよね。ごめんね、いつもありがとねお母さん」
『あらあら、改まっちゃって。なんだか照れ臭いわね』
電話越しからでも柔らかく笑う様子が分かる。
『でも、美奈。あなた大丈夫なの?』
「えぇ?私?」
大丈夫って、なんだ?心配されるようなことはしてないはずだけど。
「大丈夫だよ?」
『でも、声に元気ないわよ。それになあに?"お母さん"って、いつもママって言うじゃない』
「あぁ、そんなこと?なんか、ママって子供臭いじゃない」
『なによぉ、子供臭いって。私にとってあなたはいつまでも私の子供よ』
やけに真面目な声でそういう母の言葉に冗談は混じってない。私はその言葉に不意にカッと目頭が熱くなるのを感じた。
「そっか、私はいつまでもママの子供かぁ笑」
照れ隠しに笑ってみるけど声は震える。
電話越しでも少し泣いてることがママには伝わってそうだった。
『そうよ。あなたはママの可愛い子供よ。だから、苦しい時は何時でもいいなさい。どんな時でも駆けつけてあげるわ。』
「はは、それってなんだかヒーローみたいだね」
『母親ってのはそうでなくっちゃ』
その言葉を聞くと私は涙を止めるすべを無くしてしまった。
しばらく、声を殺しながら泣く私に、ママは焦って声をかけるわけでもなく、ただただ、優しく"大丈夫"だと声をかけるだけだった。
あぁ、どうしよう。母の日だって言うのに、いつの間にか私の方が救われてしまっている。
涙が止まらなかった。大人になりたいと思い続けていたこの数ヶ月だったが、私は今この時は、一生ママの子供でいたいと願い続けてしまう。
なんの因果か、今年の母の日は、感謝を深く伝えることは叶わず、母の優しさと温かさを思い知らされる、そんな不思議な日になってしまったのだった。
―――大人になりたい
お題【子供のままで】
頬を伝って落ちるそれは嫌に美しく透き通っていた。
そこで泣かれたって、俺にはどうしようにもできない。
ごめん
と、口先ばかりの謝罪をすることしか出来なくて、生と死という明確な壁に隔たれた俺らはよく物語で見るような切なく悲しい恋人そのものだった。
死後の世界とか言うのか、妙にふわふわとした心地の足元で、俺の死体を見下げて、俺は変な面持ちになる。
そりゃそうだ、死んだなんて自分が一番受け入れきれていない。
来月には彼女に結婚を申し込もうとまで思っていたのに。
あっさり事故なんかで押っ死ぬなんて予想もできるはずがないだろう。
自分が死んだことも悲しかったが、何より人生の中で一番愛した彼女を悲しませることが、どんなことよりも心残りで悔しかった。
ただただ、立ち尽くし、憔悴しきった顔で涙を流して濡れた頬に、触れられぬとわかっていても、彼女の悲しみと涙を同時に拭い去ってしまえるようにと、奇跡が起こることを願って、手を伸ばさずにいることは出来なかった。
しかし、伸ばした手は、何にも触れられず、静かに虚空を掴むばかりで、頬から伝って顎先から落ちた雫は、虚しく床に染みをつくるばかりであるのだった。
―――別れ
お題【雫】
自分が望んで飛び立つことを願った。
いつも手や足に枷が付けられているような窮屈さがあって苦しかった。
雲ひとつない、私を遮ることの無い、自由が欲しかったはずなのに。
いざ目の前に澄み切った空を差し出されると今度はその開放された自由に何をすればいいのか分からなくなる。
人間、わからないものだ。
ひとつの箱に閉じ込められて、出たい出たいと願っていたはずなのに、いざ箱から取り出されて、雲ひとつない快晴の空を飛び回れるというのに、今度は自由なことを恐れ始める。
結局私は、自分の環境に言い訳していただけなのかもしれない。
―――飛べない理由
お題「快晴」
ある森には、怪物と呼ばれる生き物がいた。
彼はその名の通り、醜く、誰もが見れば震えあがるような見た目をしていた。
だが、そんな見た目とは裏腹に、彼の心は清らかなもので、慈愛に満ちたものであった。
しかし、そんな、見た目と心の相反などを人は知るはずもなく、皆、醜い恐ろしい彼を罵り、虐げ、恐れた。
人々に恐れられている怪物は、自身の醜さを痛いほどにわかっていた。
そして、そんな醜い自分が美しいものに触れることが出来ないことも同じ程理解していた。
だから、森の中で小さな少女と出会った時、彼は慌てふためいた。
恐ろしい自分の姿を彼女がみてしまえば泣いて収集のつかないこととなると思ったからだ。
姿を隠して逃げてしまうことも一瞬頭をよぎったが、動揺してしまっていても、迷い込んだような姿の少女を森の中で一人きりにしてしまうのも気が引けて、どうしようかと暫く悩みこんでいたら目の前の少女は口を開いた。
「お兄さん、なんでこんなところにいるの?」
その疑問にはかつて自分を恐れた人たちのような恐怖は滲んでおらず、ただただ純粋な疑問の意思しか込められていなかった。
驚いた彼は、思わず彼女に話しかけてしまった。
「僕が怖くないの、、?」
少女はまた迷わず言った。
「なんで怖いの??」
人として扱われることは久しかった。
生まれた時から奇異な見た目をしていたせいで、親からは化け物と呼ばれ、道を歩けばこっちによるなと恐れられてどこからか石を投げつけられた。
「僕の姿気持ち悪いでしょう?」
そんな経験もあって、彼は目の前の少女が不思議でならなかった。
自分でも醜い見た目であることは自覚している。身内にすらこの容姿は忌避された。であるからこそ、少女の純真無垢な瞳が初めて見るもので、初めて向けられるもので、彼は混乱したのだ。
「見た目は怖いかもしれないけど、わたしと同じ人じゃない。何も怖くないわ。」
見た目に似つかないような、少しませた喋りをする彼女であったが、彼はそんな言葉に人生で初めて救われたような心地がした。
それからというもの、なぜだか少女は彼と仲良くしたがり、迷い込んだはずのその地に足繁く通うようになった。
村の人間に見捨てられた彼は、畑などを自力で揃えて、自給自足で生活をしていた。そのため、彼女の遊び場としては適している場所でもあったのだ。
二人は良き友人として数ヶ月ともに幸せな時間を過ごした。
だが、そんな安寧も一瞬にして壊されることとなった。
村人が、怪物が少女を誑かし、家に招き入れてよからぬ事をしようとしていると算段をつけ、少女を救うために、彼を襲ったのだ。
硬い木の床に頭を押し付けられ、大きな身体に数人の男がのしかかり息ができず、朦朧とした意識の中で彼は思った。
やはり、少女と出逢わなければ良かったと。
自分が襲われたことで優しい彼女は自分のせいだと罪を背負うと彼は考えていた。
だから、彼は叫んだ。
自分は少女を食おうとしていたと。
もう少しで上手くいったはずなのにお前らが台無しにしたと叫んだ。
そうすると、彼に襲いかかる男たちの手は容赦のないものとなった。
残虐な場面を少女に見せることはしまいと、彼女は別の村人に抱えられ、去っていた。
それでいいと思った。
自分は変わらず化け物で、怪物のままで彼女がまた平穏な暮らしに戻ればそれでいいと。
薄れる意識の中、怪物と呼ばれたひとりの青年は自分に言い聞かせるようそう思い続けた。
自分は怪物のままで、綺麗なものには触れずに汚さない方がいいと。
仕方ない。これが僕の人生だと割り切った。
でも、それでも、村人に抱えられていく彼女が去り際、こちらを見て苦しそうに泣き、僕の名前を叫び呼んだあの顔は、悲しいことに、どうにも、忘れられそうにないのだった。
―――怪物の正体
お題【それでいい】