頬を伝って落ちるそれは嫌に美しく透き通っていた。
そこで泣かれたって、俺にはどうしようにもできない。
ごめん
と、口先ばかりの謝罪をすることしか出来なくて、生と死という明確な壁に隔たれた俺らはよく物語で見るような切なく悲しい恋人そのものだった。
死後の世界とか言うのか、妙にふわふわとした心地の足元で、俺の死体を見下げて、俺は変な面持ちになる。
そりゃそうだ、死んだなんて自分が一番受け入れきれていない。
来月には彼女に結婚を申し込もうとまで思っていたのに。
あっさり事故なんかで押っ死ぬなんて予想もできるはずがないだろう。
自分が死んだことも悲しかったが、何より人生の中で一番愛した彼女を悲しませることが、どんなことよりも心残りで悔しかった。
ただただ、立ち尽くし、憔悴しきった顔で涙を流して濡れた頬に、触れられぬとわかっていても、彼女の悲しみと涙を同時に拭い去ってしまえるようにと、奇跡が起こることを願って、手を伸ばさずにいることは出来なかった。
しかし、伸ばした手は、何にも触れられず、静かに虚空を掴むばかりで、頬から伝って顎先から落ちた雫は、虚しく床に染みをつくるばかりであるのだった。
―――別れ
お題【雫】
4/21/2024, 2:10:32 PM