飛べ、飛べ、飛べッ、!
とまるで呪文のように自分に言い聞かせる。
随分と昔に怪我をしてから自慢だった飛ぶことがまるで、鎖に体が縛られたような感覚…つまり飛べなくなったのだ。
あの日いつもと同じようにただ飛んでいただけそれだけだった。急に体に力が入らなくなり空中でバランスを崩し木に突撃した。体の痛みと情報が遅れて自分に伝わった。その二つよりも早くきたのは絶望だった。運悪く羽をやってしまったみたいだ。
羽は僕らにとってとても大事だし、何より僕らの自慢の部位でもある。それが傷ついてしまったら僕らは何者でもない。
だから僕はみんなには言わず逃げた、逃げて逃げて逃げ続けた。今じゃすごく後悔している選択だ。痛みを無視しすぎたせいか、気づけと言わんばかりに全身に痛みが襲う。天敵から身を隠したところに倒れ込み痛みをなるべく和らげようとするもなにも変わらない。むしろ酷くなっていっていた。
そんな中運悪く生き残ってしまった。いっそのことならあの痛みでもう死んでしまうのではないかと思っていたが、神は酷いもので僕を生きさせてくれた。
だから僕はもう使えない自分の羽を無視して呪文のように毎日、毎日、毎日、自分に言い聞かせる。
なんてことない1日にハッピーを…
なんてことを言う、ただ五月蝿いだけの綺麗事を並べつらつらと喋っている大嫌いなテレビ画面を消す。
なんだよハッピーって…馬鹿馬鹿しいと思いながら寝転がり天井を見つめるがそんなことで気晴らしができるはずもなく残りの貯金を数えゴミ屋敷をあとにする。
こんだけで、パチできるわけねぇだろなんて思いながら自分とは真反対の色、吐きそうなぐらい綺麗な空の下で酒を片手に自動販売機を蹴る。こんなことをしたって良いわけがないそんなことわかってるけど仕方がないんだ。
パチ屋に着きいつも通りいつもの台の前に座る。中毒性のある光と音が俺を包み込む、諦めずに回す手と狂ったように財布から金を出す自分を哀れに思いながらもまるで恋したかのようにパチ台に縋り付く。
今日も負けた 昨日も負けた 明日もまた負ける
そんな繰り返しを勝つまで、それか勝った後も繰り返ししていくだろう。
生まれた意味も、生きる意味も、いなくなる勇気も、勝てる可能性、金、生きれる保証も全て失った。
義務教育の勝利を義務教育の敗北にしている自分がむしろ誇らしいほどさ…
これが俺のspecial day
真昼の夢。
私は自室…で目を覚ました。
長い長い夢を見ていた気がする。良い夢とはいえない、かと言って悪い夢ともいえない。私はすぐ夢を忘れてしまう。そんな私でも特に記憶に残る夢だった。所々忘れてしまったところはあるがローズマリー…だっけ…?その花がよく身近にあったことをよく覚えている、そしてよく私にくれた子がいる。少し見たことあるような、ないような?
何か忘れちゃいけないこと忘れてる気がする…
すると急に部屋のドアをガラガラと開け白衣を着た男性、その男性の…お手伝い?みたいな人が私に話しかけたり記録を撮ったりしている。少しパニックになっているとお手伝いの人に背中をさすってもらいすごく落ち着き安心できた。数分後用が済んだのか静まり返った部屋に男性は座り母に説明していた。
どうやら私は事故に遭い長い間“記憶喪失”だったのだ。そこから時間をかけ、たくさん自分の情報を教えてもらったり自己紹介されたりしたがせいぜい名前を覚えることで一苦労だった。
病院の周りを散歩するのに許可が降りた日早速私はお気に入りスポットを見つけた。周りは静かで空が澄み、自然が生き生きとしている。
いつしか疲れ切った自分の休みの場としてくるようになった。
記憶はまだ完全に思い出しているわけでもないし、家族や友達に支えてもらってることはわかるが少し静かにして欲しいという…我儘な気持ちもある。まず自分が事故にあったことをしっかりとわかっていない。事故はお昼時に起きた。私と同い年の子が車に轢かれそうになったところを私が突き放し、その子ではなく私が事故に遭ったと簡単に説明されていた、私もびっくりだ。普段人助けを好まない自分がするということが、でもなぜか助けたいと思った。
視線を落とし辺りを眺めていると既視感のある花があった。ローズマリーだ。その瞬間頭が痛くなり記憶が一気に入り込んできたようだった。
「思い出した…思い出したよ!忘れちゃいけないこと、」
あまりにも衝撃的だったのか自分の口から出た言葉にもう一度実感する。
どこか既視感があった花は嘘かもしれないがなぜか助けたいと思ったあの子からもらった花だ。小さい頃確か…幼馴染でよく花を摘んで遊んでいた。お父さんの急な転勤で引越しを言えず離れてしまったことを今でも後悔している。あの時は本当に申し訳なかった、長い夢は走馬灯?
座ってる場合じゃないと思い立ち上がりあの子を探そうと決心する。横から聞こえるニュースを聞き流し、
正午交通事故で高校一年生の……がなくなりました。
あの子はきっと真昼の夢を見て
「2人だけの秘密。」
そう言って僕の唇に人差し指を押し当てる君。静かでどこか気味の悪い薄暗さに僕の鼓動だけがうるさく響く。喉の音を鳴らし、静かに君を見つめる。僕に何か言いたげな表情で君も僕を見つめる。そして君の言った“2人だけの秘密”が僕の中で繰り返し再生される。2人…だけ…!僕と君しかいない僕を見てくれてる!
「…約束、できる?」
言われた言葉に犬のように返事をする僕はまるで僕じゃないように思える。でも今はそんなことどうでもいい。
こうしなきゃ君に見てもらえない、こうしなきゃ君は褒めてくれない。依存しているのはとっくにわかっている。気づきたくないから僕は依存を恋と名乗る。
好きと言ったら迷惑だろうか?愛して欲しいと言ったら嫌われるだろうか?
僕は僕だけの秘密を頭に閉じ込める。
「秘密守れたらご褒美あげる」
君からの僕に向けられた言葉に気絶しそうになるも、子供のように興奮気味で喜ぶ。あーきもい
月日が経って約束も守れ、2人だけ、2人だけで君と会う約束をした。
早速君からきた言葉は“星が綺麗だね”
僕はそれが何を意味しているのかわかっていた。
わからないふりをして僕はそうだねなんて答えてしまった。君にとって迷惑かもしれないけど、だけど、好きだったんだよ?
「明日って晴れるっけ?」
風鈴の音ともに蝉が鳴いている。
私は上京したての若者だ。クーラーは勿体無いからと金遣いの荒い私でもお金の大切さを痛いほど知り節約のため窓を開け、親から送られてきた風鈴をつける。
不思議と風鈴は自分を落ち着かせ気のせいか涼しくしてくれる。
元々は資格のため上京してきたものだから都会の知識などはゼロ、小学生や中学生の時に習ったお決まりの知らない人について行かないなどしか知らない。
勉強やお金、仕事で毎日ぎゅうぎゅう詰だ。
学校では教えてくれなかったぞなんて思い寝転がりながらスマホを見る。
対してオシャレに興味がない自分によくオシャレ動画が流れるのは嫌味だろうか?スクロールしてもスクロールしても、イエベだのブルベ?だのよくわからん単語をつらつらと並べ美人な人たちが喋っている。こんなんだけでこんなにいいねもらえんのかよ。そんな私は非モテ発言しか頭に出てこない。
顔の前に性格だよなーこう言う奴ほど周り見下してんだろ。
素直に美人を褒めればいいのにいらないところで負けず嫌いを発揮して腹を立てる。
そんな思いを打ち消すかのように風鈴が鳴る。
時計を見てみると何かを始めるには丁度いい時間だった。
重たい体を起こしため息をつきながら辺りを見渡す。
「掃除…するか…」
いつぶりだろうか掃除をするなんて、お母さんがいつも掃除をしてくれていたので掃除なんかするはずがないしする時間すらもなかった。
気晴らしには丁度いいかも。
さ、今日も頑張りますか。