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飛べ、飛べ、飛べッ、!
とまるで呪文のように自分に言い聞かせる。
随分と昔に怪我をしてから自慢だった飛ぶことがまるで、鎖に体が縛られたような感覚…つまり飛べなくなったのだ。
あの日いつもと同じようにただ飛んでいただけそれだけだった。急に体に力が入らなくなり空中でバランスを崩し木に突撃した。体の痛みと情報が遅れて自分に伝わった。その二つよりも早くきたのは絶望だった。運悪く羽をやってしまったみたいだ。
羽は僕らにとってとても大事だし、何より僕らの自慢の部位でもある。それが傷ついてしまったら僕らは何者でもない。
だから僕はみんなには言わず逃げた、逃げて逃げて逃げ続けた。今じゃすごく後悔している選択だ。痛みを無視しすぎたせいか、気づけと言わんばかりに全身に痛みが襲う。天敵から身を隠したところに倒れ込み痛みをなるべく和らげようとするもなにも変わらない。むしろ酷くなっていっていた。
そんな中運悪く生き残ってしまった。いっそのことならあの痛みでもう死んでしまうのではないかと思っていたが、神は酷いもので僕を生きさせてくれた。
だから僕はもう使えない自分の羽を無視して呪文のように毎日、毎日、毎日、自分に言い聞かせる。

7/19/2025, 10:53:31 AM