作品37 とりとめもない話
友達の定義は、とりとめもない話ができるかどうかにあると思う。
いつだったか、友人と友達の定義について話したとき、そういう考えが出てきた。
一緒にご飯を食べると友達?いや、嫌いなやつとでも食べるときがある。一度でも話したら友達?それだと知り合い多すぎて疲れるな。
じゃあ、何だろうか。
そこで出てきたのがさっきのあの言葉。二人の間では、なかなかいい線をいってるのではないかということで、この議論は終わった。
なんで急にこんな話をしたかって?それはもちろん、君に伝えるためさ。
お前は友達なんかじゃないってことを。
作品36 風邪
ピピピと、音が鳴るのを確認し、服の中から体温計を取り出す。37.8。
見事に熱が出ている。
「何度だったー?」
リビングから母の声が聞こえた。
「37.8!学校休める!」
「そーね。連絡してくるから寝てなさい。」
心配する様子は微塵もなく、母はスマホを取り出し電話をかけた。よそ行きの声。
何故か女の人って電話するとき1オクターブくらい声のトーンが上がるよな。あれ何なんだろ。音楽苦手だからオクターブなんて知らないけど。
そんなのさておき、休みができた。嬉しい。何しようかな。体はすごい元気だし何でもできる。
とりあえず、映画観るか。
スマホを手に取り面白い映画と検索をかけ、適当にスクロールし止める。指に一番近かった映画を見ることにした。
リモコンを手に取りテレビをつける。さっき見た名前を数文字打つとすぐ出てきた。結構有名らしい。興味ないけど。
ところで。映画といえばポップコーンとコーラが必要だ。しかし、悲しきことに口の中が乾くものも炭酸も苦手だ。
と、いうわけで。
「お母さーん。ジュース飲んでいー?」
母に声をかけた。
「三杯までね。」
小さくガッツポーズしてから冷蔵庫を開ける。リンゴジュースとアップルジュースとぶどうジュースが並んでいた。リンゴかアップルだなと迷う。
そしてしばらく考え気づく。
どっちも同じじゃねーかよ。だめだ頭は風邪の影響もろに食らってる。
半ば投げやりになって、一番近くにあった方を取ると、日本語の方に当たった。
机にペットボトルを置き、コップを持ってきて注ぐ。氷もあったら入れたいけど、残念ながら作っていなかった。
テレビの前にあるソファーに座り、再生ボタンを押す。映画が始まる前にある広告が流れた。
早く始まらないかな。
「ちょっと買い物行ってくるけど、欲しいものある?」
振り向くと、母が車の鍵を片手に立っていた。
「んーとね。カルピスとゼリー。あと新しいゲーム機。」
「ゼリーね。お昼は?何食べたい?何食べれる?」
「何でもいける。あ、おかゆ食べたい。」
「わかった。」
じゃ留守番お願いねといい、玄関へ向かっていった。なんて事務的なやり取りなのだろう。しかもカルピス無視されたし。
いってらーと叫びテレビを見ると、ちょうど広告が終わったところだった。
ゴロリと寝っ転がり、頭とコップを手すりに置く。この映画が終わる頃は、三時間目が始まるころかなと計算する。なんか得した気分。
うきうきしながら画面を見た。
うーん。微妙。
エンドロールを眺めながら、出てきた感想はそれだった。
伏線もないし起承転結もあまり強くない。セリフも全部棒読みだし、クライマックスがあるわけでもない。強いて言うなら画はきれいだった。大人になってみると、面白いかもしれない。きっとそうだ。
なんて偉そうに考えていると、だんだん眠くなってきた。
目が覚めたのは、母のただいまーという声だった。
「あれ寝てたの。映画どうだった?」
聞いてしまうのかそれを。
「そこそこ。お母さん好きそうだった。」
「てことはつまらなかったのね。」
やはり母には敵わない。
「はいこれゼリー。」
蜜柑の写真がついたゼリーを渡された。さすが。分かってる。
「あざます。」
ありがたく受け取り、椅子に腰掛け、蓋をペリペリっと開ける。蜜柑のいい匂い。やっぱ果物といえば蜜柑に限るな。
プルプルとしたそれを匙ですくい上げ、口に運ぶ。甘酸っぱい果実が口の中で弾ける。あーまじでたまんない。さいこー。
一個食べ終えたところで、母がお粥を持ってきた。
「もう食べたの!?これ食べてからにしなよ……」
「だって渡してきたじゃん。」
「まったく……」
そう言いながらおかゆが前に置かれた。目の前に湯気が広がる。熱々だ。
じーちゃんばーちゃんお手製の梅干しを上にのせていると、母が言った。
「あ、そういえば食糧庫にフルーツ缶あったはずだから、お昼足りなかったら食べて。」
それはすばらしい。
「ちなみに……?」
期待を込め、聞いてみる。
「蜜柑。」
「神様。」
小さくガッツポーズすると、早く食べなさいと怒られた。
おかゆを軽く冷まし、パクっと食べる。うん美味しい。やっぱ風邪ひいたときはおかゆだな。
ごちそうさまでしたと両手を合わせ、食器をシンクへ運び水につける。
そして食糧庫を開け缶カンがあるのを確認し、ベッドに向かう。食べようと思ったけど、流石に食べすぎた。
布団に入り時間を確認すると、ちょうど学校では五時間目が始まるところだった。明日は念の為休む予定だから、登校するのは明後日からか。面倒くさい。こっそり休もっかな。
なんて考えながら、ベッドの隣にある本棚から読みかけの本を一冊取り出した。
寝る前に読むために買った小説。題名に夢という文字が入っているから、寝る前にぴったりだ。
栞が挟まれているページを開き、文字をなぞる。
じんわりと頭の中で風景が広がり、セリフが再生される。こういう時間が、一番幸せだな。ずっとこうなってたい。
満腹になったからか、まぶたが重くなる。
夢の中で、誰かが百合に接吻し、男が子供を背負い、知らん人が木彫りをしていた。
絶対この話に影響されているからだろうけど、思う。
なんてカオスなのだろう。
⸺⸺⸺
蜜柑は芥川龍之介なのに夢十夜。なんなら檸檬も入れたかった。こうして人と作品をごちゃまぜにしていく。風邪ひいたときの夢みたい。
作品35 雪を待つ
雪がふると、あの子が来る。小さなおててでちっちゃな雪だるまを作る子。
何個も何個も雪だるまを作って、あの子よりもせが低い、年下の子たちにくばっている。それをいつも、部屋の中からながめている。
いいな。いつか一緒にあそびたい。
うでにはてんてき。少し歩くとすぐ疲れる体。きんにくのない細い足。真っ白な服を着た大人の人と、なれてしまったしょうどくの匂い。
いつも見ているこうけいだ。お母さんお父さんにはたまにしか会えない。
あと何回、雪を待てば、あの子達とあそべるのだろう。あと何回、雪を見れるのだろう。
いくらきいても、だれもこたえてくれない。
⸺⸺⸺
小さい子が喋ってる感じにしたくて平仮名いっぱい使ったはいいものの、すんごい読みづらい。
作品34 イルミネーション
お隣さんちは毎年、クリスマス付近になるとイルミネーションの飾り付けをしている。庭の木にも、テラスにも、家本体にも。
とっても綺麗だ。ここらへんに住んでる人達では名物となっている。
そんなお隣さんとは家族ぐるみで仲がいい。親が大学からの親友だからだ。
親がいる。それはつまりは子供がいるということだ。
お隣さんは三人家族で子供が一人いる。僕と同級生の息子だ。こいつがとんだ変わり者で。
特徴としてはメガネをかけて、ようわからん本を持って、部屋には漫画とフィギュアがたくさん。いわばヲタクと言うやつだ。かく言う僕もそうだけど。そのくせして頭がいい。ついでに性格もいい。
そこは僕とは正反対。そういうところを含めて、よくわからんやつだ。
前置きが長くなった。ちょっと僕とこいつについての昔話を聞いてほしい。
四年前のクリスマス三日前。ややこしいな。四年前の十二月二十二日。うん、こっちのほうがしっくりくる。多分だけど。
いいからさっさと続けよう。とにかくその日、僕は好きな人に、クリスマスの日一緒にイルミを見に行こうよと誘った。二人だけでというのも勿論付け足した。要は告白だ。
その人と出会いは席替えで、たまたま隣になった。その人は休み時間のたびに僕に話しかけてくれた。
その人のもう片方の隣の席には、クラス一のイケメンがいるのに!つまりこれは、……そういうことだな!てな感じで好きになった。
そしてあっけなく振られた。恋人がいるからと。相手はあのイケメン野郎で、学校で話しかけるのは恥ずかしいから喋らなかったらしい。
まあ、当然傷つくよな。だから僕は隣の家のあいつに、ゲームしながら愚痴った。
聞いてくれよーあの子僕のこと何とも思ってないってーこんなに頑張って誘ったのにー。という僕に対して、はいはいそうだな可哀想に。くらいしかあいつは言わなかった。
「あーあ。今年もクリぼっちかー。」
「そうだな。」
「一度でいいから好きな人と過ごしてみたいよ……」
「可哀想に。そこ罠仕掛けた。」
「おい!話もちゃんと聞いてくれないくせになんてことすんだよ!」
「ポテチやるから許せ。」
「許す。」
「はい勝ったー。」
「おい!あーくそ!クリスマスも告白もゲームも、全部うまく行かない!もうやだ!」
「そうだな。はい、ポテチ」
「あー。もーやだー。」
「喋りながら食うな。」
「あの公園のイルミ、綺麗って話で有名だから一緒に見に行きたかったのに……」
「……どれもそんな変わらないよ。」
「変わるよ!」
「俺んちよりも?」
「なんて答えづらい問いをするんだ」
「冗談だよ。」
「分かりづれーよ。」
とまあ、ここまでは普通の会話だ。こいつのやばいのはこのあとだよ。
「でもまあ実際、メガネを外すか泣くかすれば、全部同じに見えるけどな。」
「へー。」
「なあ。」
「何?」
「ちゃらけようとしなくていいんだよ。」
「……へ」
「泣いていいんだよ。」
「何言って」
「泣きなよ。」
「いや何が」
「そんな顔してるのに。」
「……」
「今からメガネ外すから、なんも見えないよ。好きにしな。ただし、無理はすんな。」
なんて言ったのですよ!イケメンすぎない!?
哀れんでくれたのか、その年から一緒にクリスマスを過ごすことになったんよ。
というのが昔話です。そしてここからは愚痴です。
そいつ、今年は彼女と一緒にクリスマス過ごすってよ。ふざけんな。
作品33 愛を注いで
親に愛され過ごしてきた。血は繋がっていないけど、本当のわが子のように愛されていた。幸せだった。だけど、妹が生まれた途端愛されなくなった。
異性に愛され過ごしてきた。容姿が整っているからだ。どいつもこいつも体目当てだった。後々聞いた話だと、賭けの対象にされていたらしい。
友人に愛され過ごしてきた。お小遣いをたくさんもらえていたからだ。たくさんプレゼントを送った。友人が私の悪口を言っているところを見るまでは。
後輩に愛され過ごしてきた。部活のお別れ会では呼ばれなかったけど。
先輩に愛され過ごしてきた。そのはずだ。だから大学は親愛なる先輩についていった。再会したとき、まじでついてきたのかよと、引かれた。
みんなに愛され過ごしてきたはずだ。それは私の勘違いなのかもしれない。
誰か、私に本物の愛を注いでください。