作品35 雪を待つ
雪がふると、あの子が来る。小さなおててでちっちゃな雪だるまを作る子。
何個も何個も雪だるまを作って、あの子よりもせが低い、年下の子たちにくばっている。それをいつも、部屋の中からながめている。
いいな。いつか一緒にあそびたい。
うでにはてんてき。少し歩くとすぐ疲れる体。きんにくのない細い足。真っ白な服を着た大人の人と、なれてしまったしょうどくの匂い。
いつも見ているこうけいだ。お母さんお父さんにはたまにしか会えない。
あと何回、雪を待てば、あの子達とあそべるのだろう。あと何回、雪を見れるのだろう。
いくらきいても、だれもこたえてくれない。
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小さい子が喋ってる感じにしたくて平仮名いっぱい使ったはいいものの、すんごい読みづらい。
作品34 イルミネーション
お隣さんちは毎年、クリスマス付近になるとイルミネーションの飾り付けをしている。庭の木にも、テラスにも、家本体にも。
とっても綺麗だ。ここらへんに住んでる人達では名物となっている。
そんなお隣さんとは家族ぐるみで仲がいい。親が大学からの親友だからだ。
親がいる。それはつまりは子供がいるということだ。
お隣さんは三人家族で子供が一人いる。僕と同級生の息子だ。こいつがとんだ変わり者で。
特徴としてはメガネをかけて、ようわからん本を持って、部屋には漫画とフィギュアがたくさん。いわばヲタクと言うやつだ。かく言う僕もそうだけど。そのくせして頭がいい。ついでに性格もいい。
そこは僕とは正反対。そういうところを含めて、よくわからんやつだ。
前置きが長くなった。ちょっと僕とこいつについての昔話を聞いてほしい。
四年前のクリスマス三日前。ややこしいな。四年前の十二月二十二日。うん、こっちのほうがしっくりくる。多分だけど。
いいからさっさと続けよう。とにかくその日、僕は好きな人に、クリスマスの日一緒にイルミを見に行こうよと誘った。二人だけでというのも勿論付け足した。要は告白だ。
その人と出会いは席替えで、たまたま隣になった。その人は休み時間のたびに僕に話しかけてくれた。
その人のもう片方の隣の席には、クラス一のイケメンがいるのに!つまりこれは、……そういうことだな!てな感じで好きになった。
そしてあっけなく振られた。恋人がいるからと。相手はあのイケメン野郎で、学校で話しかけるのは恥ずかしいから喋らなかったらしい。
まあ、当然傷つくよな。だから僕は隣の家のあいつに、ゲームしながら愚痴った。
聞いてくれよーあの子僕のこと何とも思ってないってーこんなに頑張って誘ったのにー。という僕に対して、はいはいそうだな可哀想に。くらいしかあいつは言わなかった。
「あーあ。今年もクリぼっちかー。」
「そうだな。」
「一度でいいから好きな人と過ごしてみたいよ……」
「可哀想に。そこ罠仕掛けた。」
「おい!話もちゃんと聞いてくれないくせになんてことすんだよ!」
「ポテチやるから許せ。」
「許す。」
「はい勝ったー。」
「おい!あーくそ!クリスマスも告白もゲームも、全部うまく行かない!もうやだ!」
「そうだな。はい、ポテチ」
「あー。もーやだー。」
「喋りながら食うな。」
「あの公園のイルミ、綺麗って話で有名だから一緒に見に行きたかったのに……」
「……どれもそんな変わらないよ。」
「変わるよ!」
「俺んちよりも?」
「なんて答えづらい問いをするんだ」
「冗談だよ。」
「分かりづれーよ。」
とまあ、ここまでは普通の会話だ。こいつのやばいのはこのあとだよ。
「でもまあ実際、メガネを外すか泣くかすれば、全部同じに見えるけどな。」
「へー。」
「なあ。」
「何?」
「ちゃらけようとしなくていいんだよ。」
「……へ」
「泣いていいんだよ。」
「何言って」
「泣きなよ。」
「いや何が」
「そんな顔してるのに。」
「……」
「今からメガネ外すから、なんも見えないよ。好きにしな。ただし、無理はすんな。」
なんて言ったのですよ!イケメンすぎない!?
哀れんでくれたのか、その年から一緒にクリスマスを過ごすことになったんよ。
というのが昔話です。そしてここからは愚痴です。
そいつ、今年は彼女と一緒にクリスマス過ごすってよ。ふざけんな。
作品33 愛を注いで
親に愛され過ごしてきた。血は繋がっていないけど、本当のわが子のように愛されていた。幸せだった。だけど、妹が生まれた途端愛されなくなった。
異性に愛され過ごしてきた。容姿が整っているからだ。どいつもこいつも体目当てだった。後々聞いた話だと、賭けの対象にされていたらしい。
友人に愛され過ごしてきた。お小遣いをたくさんもらえていたからだ。たくさんプレゼントを送った。友人が私の悪口を言っているところを見るまでは。
後輩に愛され過ごしてきた。部活のお別れ会では呼ばれなかったけど。
先輩に愛され過ごしてきた。そのはずだ。だから大学は親愛なる先輩についていった。再会したとき、まじでついてきたのかよと、引かれた。
みんなに愛され過ごしてきたはずだ。それは私の勘違いなのかもしれない。
誰か、私に本物の愛を注いでください。
作品32 心と心
身震いがした。鳥肌が立った。感動とも嫌悪ともとれる、そんな興奮。心を鷲掴みされただけでなく、揺さぶられたような感覚。それらがどっと、押し寄せてくる。
彼が書いた作品は、そんな物だった。
設定はすごくありきたりな内容。
主人公がただただ不幸な話で、最後は何も報われず、ひとり寂しく死ぬというバットエンド。
ありきたりすぎて、オチが弱い。まあ、素人にしてはいいほうだと思う
ただ一つずば抜けている点は、文章力だ。
嫌に粘りっこいのに、読む手は止まらない。胃もたれしそうなのに、これまでにないほど爽やかな読み心地。幼児でも読めそうだけど、とてつもなく重い文章。客観的なのに感情的。
それはまるで、心と心が紙越しに繋がったような感覚。
こんなの初めてだ。この人がいい。この人に、私の人生を書いてもらいたい。
そう思ったから彼に取材をしてもらった。
出身地、育った場所、好きな食べ物に嫌いな食べ物、恋愛経験、嫌いな人、学歴、習い事、部活、家庭環境、思い出、辛かったこと、楽しかったこと。それ以外にもたくさん聞かれた。
全ては、私の人生の小説を書いてもらうため。これからの人生の台本のため。
私は機械だ。他の機械と違うのは、元人間だったということ。そのため、僅かに感情がある。
機械が人間に逆らうことがないように、我々は人生の台本を人間に作ってもらう義務がある。普通なら主人が作ってくれるのだが、私は特別に、自分の好みで選べることになった。
そうして私だけの台本が渡される。読んでみる。つまらない内容だけど、楽しそうに見えてきた。
これからの人生が楽しみだ。
作品31 何でもないフリ
風の強い秋の日。祖母のお葬式にでた。
そんなに会ったことがなかったからあまり悲しくなかった。泣けなかった。
そしたら親戚のおばさんに、無理に何でもないフリしなくていいと言われた。
だから悲しそうなふりをした。泣くことはやっぱりできなかった。棺にお花を入れるときだけ、ちょっとだけ怖かった。
葬式のあと、叔父が一人一人に手紙を渡していった。名前が書かれているのを読むと祖母の字だった。叔父曰く、祖母がみんなに向けて書いたらしかった。
家に帰ってから、自分の部屋に篭もる。
そっと便箋をあけ、丁寧に四つ折りされた手紙を取り出す。ふわっと金木犀の香りがした。祖母の、大好きな匂い。
手紙を開くと、イチョウの絵があった。祖母と祖父の、大事な想い出らしい。昔、一緒に寝たときに教えてもらった。祖父は、生まれるずっと昔に死んでるから面識はない。
縦書きで書かれたそれを読みはじめる。
まず最初に、
『無理に悲しいフリしなくていいよ』
そう書かれていた。少ししか会ってない孫のことをよく知っているもんだ。
その先には、生まれた時のこと、小学校に入学した時のこと、ある年の正月、昔はよく遊びに行った夏休み、最後にあった冬休みの思い出が、たくさん書かれていた。
読み終えてから、大事にされていたんだなと気づく。
それでもやっぱり泣けない。悲しくなったけど、泣けない。もっと。もっと泣けるようになるまで、たくさん会えばよかったな。
そうしてやっと涙がこぼれた。
それは後悔の涙だった。
ここは、天国?川の向こうにあの人が見える。
待っていてくれたんだ。約束を、守っていてくれたんだ。
もうちょっと待ってて。すぐそっちに渡るから。
ほら。両手いっぱいにイチョウを持ってきたよ。わたしも約束、忘れてなかったからね。
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作品4 秋風 と
作品8 たくさんの想い出 の
二人が夫婦だったバージョン
最後の謎の行は、亡くなった祖母(またはわたし)のシーンです