終わりにしよう
「終わりにしよう」
そう書かれた文字を指でそっとなぞる。
あまりにもあっけないその終わりに、涙も上手く出なくて、ただ飲み込むように受け入れた。
どこかおいてけぼりにされた心が、泣いているような、そんな気がした。
手を取り合って
夕焼けが街全体を染め上げる。ゆっくりと夜になっていく街で、君はどこか含みのあるような笑みで手を差しのべた。
決して選ぶ立場ではない君が、まるでこちらを選ぶかのように振る舞うから。
思わず、その手を掴む。繋がれた手は互いを求めるように絡み合って。
君のその夜を思わせるような紺色の瞳が、まっすぐこちらを向いていた。
さあ、参りましょう。夜という虚しい街に。
優越感、劣等感
優越感に浸って、劣等感に溺れて。
あの子よりは、と思うのに、私なんて、が邪魔をして。
比べる必要なんて、どこにもないのに。それをして傷つくのは、自分だということに気づいているのに。
粗探しみたいに比べられるところを探して、比較して、優越感に浸るか、劣等感に溺れるだけ。
みんな違うのだから、比べなくていい、なんて言うけれど、仕方ないじゃないか。自分以外の誰かがいる限り、比べられる対象がある限り、比べてしまうのだから。
これまでずっと
「じゃあ、もう好きにしなさい」
そう言われて、愕然とした。それと同時に、その言葉で、自由になれたのだと頭で理解した。
それなのに、いざ好きにしようと考えてみてもやりたいこともなければ、好きなことすらもよくわからなくて。
これまでずっと、あなたのため、という言葉に支配されて生きてきたせいで、自分のことなのに何もわからなかった。
何が好きで、何が嫌いで、何がしたいのか。
もう誰も決めてはくれなくて。
それでようやく、今まで自分ではない誰かの叶えたかった人生を歩んできたことに気づいた。気づいて、呆れたような乾いた笑いが出る。
ああ、決して少なくない二十年近くの年月を、自分のものではないことに使っていたなんて。
無駄にしたな、なんて思いながら、そっと心の奥底へともぐり込む。
そこには、幼い頃の自分がいた。まだ、あんな呪いをかけられていない純粋な自分が、笑顔でこちらに手を差しのべる。
「あなたがやりたいことを、やろう」
そう伝えれば、その子は花が咲くみたいに笑った。
「うん! 一緒にね!」
1件のLINE
たった一件の通知、それだけで世界はガラリ、と変わってしまう。
『迎えに行くよ』
画面に表示された名前に、見覚えはない。それなのに、アイコンの写真はどこかから盗撮された自分自身の写真で。
ひゅっ、と喉が鳴る。カタカタ、と震え出す体を守るように抱きしめて、縮こまった。
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。浅く速くなる呼吸に、恐怖で溢れてくる涙が頬を伝う。
「迎えに来たよ」
ドアの向こう側で、たしかにそう声がした。