H₂O

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これまでずっと


「じゃあ、もう好きにしなさい」
そう言われて、愕然とした。それと同時に、その言葉で、自由になれたのだと頭で理解した。
それなのに、いざ好きにしようと考えてみてもやりたいこともなければ、好きなことすらもよくわからなくて。
これまでずっと、あなたのため、という言葉に支配されて生きてきたせいで、自分のことなのに何もわからなかった。
何が好きで、何が嫌いで、何がしたいのか。
もう誰も決めてはくれなくて。
それでようやく、今まで自分ではない誰かの叶えたかった人生を歩んできたことに気づいた。気づいて、呆れたような乾いた笑いが出る。
ああ、決して少なくない二十年近くの年月を、自分のものではないことに使っていたなんて。
無駄にしたな、なんて思いながら、そっと心の奥底へともぐり込む。
そこには、幼い頃の自分がいた。まだ、あんな呪いをかけられていない純粋な自分が、笑顔でこちらに手を差しのべる。
「あなたがやりたいことを、やろう」
そう伝えれば、その子は花が咲くみたいに笑った。
「うん! 一緒にね!」

7/12/2023, 12:59:37 PM