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4/1/2023, 2:43:06 PM

エイプリルフール


「嘘つき」
責めるようにそう言えば、あなたは困ったような顔をした。
ずっと私はあなたと付き合っていたと思っていたのに。
好きと言った言葉も愛してるの言葉も、一年に一度今日しか聞けない。そのくせ今年は、別れてくれ、なんて言うんだから。
わかってたよ、君が私のこと本当は嫌いだって言うことも。本当は付き合ってなんかいなかったことも、ずっと私だけ勘違いして踊らされていたんだ。
もっと早くに気づけばよかった。今日がエイプリルフールなんて、少し考えたらわかるのに。
だから、あなたの言葉に素直に頷いた。
「バイバイ」
そう言って別れを告げる。でも、気づいていなかった。それが嘘だってことも。

3/31/2023, 3:10:11 PM

幸せに


幸せになりたい、と少女は泣きながら願いました。
幸せになってね、と女性は泣きそうな声で言いました。
どうか幸せに、そう優しく微笑んだその人は目を閉じて祈りました。
幸せになれたかな、そう問いかければ、その人はとても幸せそうな笑みを浮かべて、はい、と答えました。

3/30/2023, 2:43:31 PM

何気ないふり


3、2、1、そう心の中でカウントダウンをして、曲がり角を曲がった。前から来た君とぶつかって、ようやく君が僕のことを見てくれた。
すみません、大丈夫ですか、と心配しながら、手を差し出すけれど、心の奥底の方では嬉しさでニヤケが止まらなかった。
「運命の出会いだったよね!」
君はそのときのことを嬉しそうにそう語った。ああ、たしかに運命的だったよ。でもそれが最初の出会いでもなければ、運命でもなかったことに君は気づいていない。作られた運命に君は目を輝かせて喜ぶ。
たとえば、君の好きなものや嫌いなもの。家族構成や交遊関係、いつどこで何をして、何を食べて、何を話したのか。全部全部知っているから。
「すごーい! なんでわかったの?」
君がほしいものも、ほしい言葉も、何だって与えられる。君はそのことを運命だと言ったりもするけれど、それがすべて計算だとは気づいていないのだろう。
だから、僕は今日も何気ないふりをする。偶然を装って、あえて知らないふりをして、君が気づかないように、運命という名の歯車を自分の手で回すんだ。

3/29/2023, 2:15:13 PM

ハッピーエンド


終わりよければ、すべてよし、その人はそう言いました。
この世のすべての憎しみを詰めこんで、ありとあらゆる業を背負わせて、絶望という絶望を味わった私に用意されていたのは、ぬるま湯につかったような、ともすれば綿で包まれるようなそんなあっけのないハッピーエンドでした。
結局幸せになれたのは、私と一握りの人間だけで、私を苦しめてきた人たちにとってはバッドエンドなのでしょう。
どうせなら、みんなが幸せになれるハッピーエンドを書いてくれたらいいのに。そう思ったところでその人には伝わらないし、物語の結末が変わることはありません。
多くを犠牲にした上に成り立つこの幸せは果たして本当に幸せなのでしょうか。そう問いかけたところで、その人は素知らぬ顔をするだけです。いえ、届かないのだから仕方のないことなのですけれど。
ただ、知っておいてほしいのです。あなたが生み出した私という存在を、私たちが住むこの世界のことを。あなたが書いた通りになるこの物語は、あなたの頭の中にだけれど、たしかに存在していて、私たちはそこで生きているのです。
あなたに生かされているのです。
だから、願わくば次はみんなが幸せになれるようなそんなハッピーエンドを。

3/28/2023, 2:28:55 PM

見つめられると


じっ、と曇りのないような瞳だった。心の奥底を見透かすようなその目に居心地が悪くなって視線を逸らす。
自分を守るようなその行為が本当は違うことに気がついたのはきっと偶然だった。
その瞳を見るだけで、相手の機嫌だったり、感情だったりをわかっていたのは自分の方だったのだ。目は口ほどにものをいう、なんて言うけれど、それが理解できた瞬間、目を逸らしてしまいたくなるのはきっと相手の本心に気づいてしまうから、わかってしまうから。
それがどれだけ自分の心をすり減らせるのかをきっと無意識のうちによく知っていたのだ。だから、今日もその瞳から逃げるように目を逸らした。

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