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何気ないふり


3、2、1、そう心の中でカウントダウンをして、曲がり角を曲がった。前から来た君とぶつかって、ようやく君が僕のことを見てくれた。
すみません、大丈夫ですか、と心配しながら、手を差し出すけれど、心の奥底の方では嬉しさでニヤケが止まらなかった。
「運命の出会いだったよね!」
君はそのときのことを嬉しそうにそう語った。ああ、たしかに運命的だったよ。でもそれが最初の出会いでもなければ、運命でもなかったことに君は気づいていない。作られた運命に君は目を輝かせて喜ぶ。
たとえば、君の好きなものや嫌いなもの。家族構成や交遊関係、いつどこで何をして、何を食べて、何を話したのか。全部全部知っているから。
「すごーい! なんでわかったの?」
君がほしいものも、ほしい言葉も、何だって与えられる。君はそのことを運命だと言ったりもするけれど、それがすべて計算だとは気づいていないのだろう。
だから、僕は今日も何気ないふりをする。偶然を装って、あえて知らないふりをして、君が気づかないように、運命という名の歯車を自分の手で回すんだ。

3/30/2023, 2:43:31 PM