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12/2/2022, 2:43:01 PM

光と闇の狭間で


一本の線が引かれているくらいわかりやすかったらいいのに。ここまでが0で、ここから先が1みたいにちゃんとした区切りみたいなものがあれば、きっとこんなにも悩んだりなんかしない。
その境界線が曖昧だから、揺れ動いて、相反するような感情が1つしかない心を奪い合うように埋めていく。
自らの闇の中で苦しいと嘆くのに、救ってほしいと一筋の光る希望を抱いて、その狭間で今日も泣きながら笑っている自分がいた。

12/1/2022, 2:10:34 PM

距離


半径一メートル、手を伸ばせば届く距離に君はいる。
声の届く範囲に、気配に気づく距離に君はいるのに、ついに最後の日まで想いを伝えることはなかった。
アルバムを片手に寄せ書きを書き合うクラスメートにまぎれて、アルバムを差し出せば、君も同じようにアルバムを渡してくれた。
どうせもう会えないのだから、と言えなかった本音と想いを綴る。
そのままアルバムはクラスメートの手に次々渡り、戻ってきた頃には真っ白だったページが個性豊かな文字で埋め尽くされていた。
そこに見つけた少し不格好な、でも力強いその文字には見覚えがありすぎて、名前を見るよりも先にそれが君の文字だと気づいた。
そこに書かれた二文字を頭で理解した瞬間に走り出していた。まだ人で溢れかえる校舎の中でたった一人を探して、走り回る。
ようやく見つけた君はもうすぐ裏門をくぐりそうなところで、大声を出して呼び止める。
「待って!」
その声に足を止めた君が振り返って、目が合ったときなぜだか泣きそうになった。ゆっくりと近づいて、その手を伸ばす。
半径一メートル、それよりももっと近づいて、君の目の前に立つ。君の瞳に映る自分が見えるくらいの距離で、好きを伝えれば、君からも同じ言葉が返ってきた。
ずっと半径一メートルの距離だったそれが、ようやくゼロセンチになった。

11/30/2022, 1:18:10 PM

泣かないで


ドアの向こうからぐす、と鼻をすする音がした。ゆっくりとドアを開けて、うずくまって泣く君の隣にそっと座る。
少しだけ肩が触れあって、そこからじんわりと熱が伝わるのを感じた。
ただ何も言えない僕の呼吸音と泣き続ける君の嗚咽が静かな部屋に響く。君の涙の理由も君の悲しみも、苦しみもわかるから、泣かないで、とは言えなかった。
むしろ泣いてすっきりしてくれる方がよかった。無理に笑ったりしないで、ちゃんと悲しんで、ちゃんと苦しんで。その感情に折り合いをつけて、それからちゃんと笑ってほしいから。
どれくらい経ったかわからないけれど、太陽はすっかり沈んで月が優しく照らす中、君はようやく涙を拭いた。
目はまだ赤くて、泣き跡や涙か鼻水かよくわからない液体でぐしゃぐしゃだけど、君はすっきりした顔で言った。
「……ありがと」
うん、静かにそう返せば、君は少し照れくさそうに笑う。その顔がかわいくて、思わずこの腕に閉じ込めたくなるけれど、まだ臆病な僕は何もできないまま君のことを見つめる。
好きな人の好きな人が僕ならいいのに。
僕ならこんな風に泣かせたりしないのに。

11/29/2022, 12:23:49 PM

冬のはじまり


朝目を覚ますと空気がシン、としてちょっぴり刺すような冷たさがまだぬくい体を冷やしていく。
季節の変わり目はどうもわかりにくい。徐々にグラデーションをかけるように変わっていく季節に明確な変わり目なんてないから。
でも、ほんの少しだけ目覚めたときの空気が違ったりするから、ああもうこんな時期か、なんて思う。
冬のはじまりはどうも肌寒くて、人恋しくなるような、そんな気持ちになる。その寒さを紛らわしたくて、あたたかさを感じたくて、つい誰かと付き合ってしまいたくなるけど、それももうやめた。
誰かの曖昧な温もりなんて、いらない。
今はただ君の温もりが恋しい。
冬のはじまり、それは君と出会った日。
そして君がいなくなった日。

11/28/2022, 1:31:54 PM

終わらせないで


「いつかきっと終わりはやってくる」
君はどこか悲しそうに、切なそうにそう言った。
「どんなことにもさ、始まりがあるから。終わりは必ずついてくるんだよ。その終わりがさ、辛くて悲しくて、胸が締めつけられるような終わり方なときもあるけど、優しくて美しくて、愛しく思うような終わりもさ、あったりするんだ」
「でもさ、終わりなんて来ない方がいいし、終わらせないで、って思うのはわがままかな?」
「そうだね、わがままなのかもね。でもさ、私は終わりが来た方がいいな」
「どうして?」
「だって、終わりが来ない方が怖いでしょ? いつまでも終わりが来ないのはさ、ずっと続くわけじゃん」
「続く方がよくない?」
「続いちゃったら、終わりが来てほしいってきっと思うよ。だって、一生終わらずにずっと繰り返すのはさ、いつか苦しくなるから」
「そういうもん?」
「うーん、少なくとも私は、そうかな。だから、終わりは来てほしい。じゃないとまた始まらないでしょ?」

終わりも始まりも、その過程もいつかすべて愛せるように。
たとえすべてが終わったとしても、終わらせないでほしい、なんて言わないから。
また始めようよ。

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