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距離


半径一メートル、手を伸ばせば届く距離に君はいる。
声の届く範囲に、気配に気づく距離に君はいるのに、ついに最後の日まで想いを伝えることはなかった。
アルバムを片手に寄せ書きを書き合うクラスメートにまぎれて、アルバムを差し出せば、君も同じようにアルバムを渡してくれた。
どうせもう会えないのだから、と言えなかった本音と想いを綴る。
そのままアルバムはクラスメートの手に次々渡り、戻ってきた頃には真っ白だったページが個性豊かな文字で埋め尽くされていた。
そこに見つけた少し不格好な、でも力強いその文字には見覚えがありすぎて、名前を見るよりも先にそれが君の文字だと気づいた。
そこに書かれた二文字を頭で理解した瞬間に走り出していた。まだ人で溢れかえる校舎の中でたった一人を探して、走り回る。
ようやく見つけた君はもうすぐ裏門をくぐりそうなところで、大声を出して呼び止める。
「待って!」
その声に足を止めた君が振り返って、目が合ったときなぜだか泣きそうになった。ゆっくりと近づいて、その手を伸ばす。
半径一メートル、それよりももっと近づいて、君の目の前に立つ。君の瞳に映る自分が見えるくらいの距離で、好きを伝えれば、君からも同じ言葉が返ってきた。
ずっと半径一メートルの距離だったそれが、ようやくゼロセンチになった。

12/1/2022, 2:10:34 PM