H₂O

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泣かないで


ドアの向こうからぐす、と鼻をすする音がした。ゆっくりとドアを開けて、うずくまって泣く君の隣にそっと座る。
少しだけ肩が触れあって、そこからじんわりと熱が伝わるのを感じた。
ただ何も言えない僕の呼吸音と泣き続ける君の嗚咽が静かな部屋に響く。君の涙の理由も君の悲しみも、苦しみもわかるから、泣かないで、とは言えなかった。
むしろ泣いてすっきりしてくれる方がよかった。無理に笑ったりしないで、ちゃんと悲しんで、ちゃんと苦しんで。その感情に折り合いをつけて、それからちゃんと笑ってほしいから。
どれくらい経ったかわからないけれど、太陽はすっかり沈んで月が優しく照らす中、君はようやく涙を拭いた。
目はまだ赤くて、泣き跡や涙か鼻水かよくわからない液体でぐしゃぐしゃだけど、君はすっきりした顔で言った。
「……ありがと」
うん、静かにそう返せば、君は少し照れくさそうに笑う。その顔がかわいくて、思わずこの腕に閉じ込めたくなるけれど、まだ臆病な僕は何もできないまま君のことを見つめる。
好きな人の好きな人が僕ならいいのに。
僕ならこんな風に泣かせたりしないのに。

11/30/2022, 1:18:10 PM