鐘の音は幸せを呼ぶという。
静かな海辺にその鐘はあった。
毎日観光客がこぞって鐘を鳴らす。
いつも見るその光景、私は呆れていた。
「幸せなんて 願ったって来ない。」
何度も願っても来てくれなかった。
私が証明だった。
兄を亡くして5年。
そして
私の大切な人が今年 病に倒れた。
辛く残酷な世界にいる今。
鐘は自体が元凶だとは知らずに
今日も音を響かせている。
始まりがあれば終わりがある。
それは人生にも言えることだ。
一人の病室
何回もの入退院。
まる一年学校に行けていない。
留年は逃れられないし、下手したら退学だ。
本当は高校最後の夏なのに。
今年の夏もこの部屋の窓から花火を見る。
夏なのになんだか病室はつめたい。
私は 教室で一人
友達と呼べる人はいない。
6時間目の授業中
急に雨が降り始めた。
雷が教室に響き渡り
教室は騒然とした。
周りは傘持ってないだの、親に迎えに来てもらうから一緒に帰ろうだの話していた。
私は傘を持ってなかったし、親も仕事でいなかった。
雨宿りをする事にした。
授業が終わり 外を見ると雷が大雨へと変わっていた。
私はみなが帰った、誰もいない教室で一人イヤホンをつけ音楽を聴き雨がおさまるのを待つことにした。
然し雨はどんどんと激しくなり
スマホの大雨警報通知で早く帰った方がよかったと知る。
普段友達がいないから一人スマホとにらめっこで使いこなしていると思っていたが、天気予報を調べる頭がなかった。
自分に呆れる。
雨はこれからも続く。
私は走って帰ろうと決め 5階の教室から急いで下駄箱へと向かった。
傘立てはからで誰もいない。
余っている傘があれば借りて行ってしまおうと頭の隅で考えていたが叶わなかった。
スマホだけは濡れぬように制服のポッケに大切にしまった。
いざ駆け出そうと思った時。
「内永さん?」
私の名を誰かが呼んだ。
声がした方へ振り抜くと
同じクラスの結城さんが傘を持って下駄箱のすのこに立っていた。
「内永さん傘は?」と聞かれて
私は正直に持ってないと答えた。
すると結城さんがカバンの中から折りたたみ傘を取り出して「よければ使って」と差し出してくれた。
私はありがたく使わせてもらうことにした。
「内永さん、これから予定とかある?」
これまでクラスでは仲良しグループを作ったりせずに、一人でいた私。
遊ぶ約束、帰る約束は中学以来していない。
そのため予定を聞かれて少し戸惑ってしまった。
そうすると結城さんは優しく「嫌じゃなければ一緒に帰らない?」と誘ってくれた。
この2人しかいない状況で別々に帰るのも気まづいものだと思い、「嫌じゃないよ。帰ろ」と返した。
家までは電車を使って30分かかる。結城さんも電車を使うだろう。それまでの間誰かと話して帰るのも悪くは無い。然しお互い話したことがなく、会話の内容は天気の話。その天気の話も5ラリー続いたが私が打ち返せずに終わった。
雨の中の無言。
勢いよく振る雨
そして風と雷
道には水溜まりができている。
傘をさしていてもどんどん濡れていく制服。
もしも傘をさす才能というものが存在するのなら私は確実にない人間だと一目でわかるほどの濡れ具合だった。
そんな私に気が付いたのか結城さんは「駅に着いたらタオルで拭かないと風邪ひいちゃうね。」声をかけてくれたが私は「そうだね。」としか返せなかった。
駅に着くと人が溢れかえっていた。
大雨の影響で電車に遅れが出ているようだった。
改札口は並んでいた。
遅延するほどの大雨を2人で歩いてきたことに少し驚いていると結城さんも同じことを思いていたらしく「私たちは大雨になんか負けなかったね」と笑顔を私に見せた。
遅延状況を確認したところ後1時間は動けない状態だと分かり駅構内で唯一席が空いていたカフェへ移動した。
まるまる1時間 話したことない人と一緒にいる。
会話はすぐ私で終わる。他人と会話のラリーなどしばらくしていなかったため分からない。
とりあえず最善を尽くす事にした。
ふと思った。クラスでも影の薄い、暗い私を何故 結城さんは知っていてくれていたのだろう。知っていたとしてもわざわざ呼び止め傘を貸してくれて、一緒に帰ってくれたのだろう。
中学とは違い、変に思われてもプラマイゼロの私にはこの質問をする勇気だけはあった。
すると結城さんは少し恥ずかしげに「ずっとお友達になりたかったの。」と話してくれた。
誰とも話さない一人ということを一匹狼、クール、ミステリアスと思われていたらしく、ずっと気になっていたと。
私は自分はただの陰キャで結城さんが想像しているようなかっこいい感じでは無いと伝えると
「今日一緒に帰ってお茶目な1面もあってもっと興味深いと思ったの!!」
と興奮気味に語った。
結城さんは大人しく、優しく、綺麗なイメージだった。だから楽しそうに話すところを見て意外と元気っ子な所があるんだと、お互い知らない一面を知れるそんな日だった。
話していけばいく程に、イメージとは違うもっと素敵な結城さんがみえた。
電車は動き始めた。
お互いの家は上り方面下り方面で乗る電車が違う為改札まで一緒に歩いた。
別れ際
この間までの私には怖くて出せなかった勇気を出してみた。
「明日、もし晴れたら放課後またお茶しない?」
「もちろん!いいよ!」
結城さんは私の震える勇気を笑顔で受け止めてくれた。
別れを告げて手を振る。
空を見ると
夕日が雨雲の隙間からかおを出していた。
ぺトリコール香る今
明日は晴れるだろう。
②2話
私はずっと一人だ。
夏休み前の1年5組の教室は
いつもに増して 騒がしい。
休み時間
クラスメイトが席を立ち
仲いい子達で集まる。
そんな中私はいつも教室の隅に
一人でいる。
友達はいない。
作らないし、作りたくは無い。
然しそんな私でも中学の頃は一人では無かった。
クラスの仲がいい3人グループの1人だった。
元々友達だった2人のところにクラス替えで座席が近く授業で話し合うことが多くそこから仲良くなったのがきっかけだ。
帰りも2人とも帰っていた。
2人は同じマンションで私よりも家が遠かった。
ある日の放課後いつものように一緒に帰ろうとしていたら「ごめん、今日は一緒に帰れない。」と2人から言われた。
その時は「おっけー 大丈夫!」と何も気に止めることなく返事を返していたが、このように3人で一緒に帰れないことが多くなっていった。
私は自分が嫌われているのではないかと少し疑うようになった。
いつも優しく、一緒に居て楽しい2人だから疑いたくはなかったが、これからも一緒にいたいからこそ嫌われている部分は直したいと
思った。
だから1度聞いてみることにした。
いつものように今日も帰れないと言う2人に
「なにか予定とかあるの?」と勇気をだしてそれとなく聞いてみた。
返事は「幼馴染と帰るから。」だった。
「クラス替え前までは幼馴染と毎日帰ってたんだけど、いつも委員会があるから帰れなくって、でも今日は委員会ないらしいから帰るの」
私は「そうなんだ」と返して2人に手を振った。
私は2人にとって委員会で一緒に帰れない幼馴染の代わりだったのか?
そう考えるようになってしまった。
秋になり三年生は受験のため委員会が代替わりになる頃。
2人は私と一切帰ってくれなくなった。
誰かの代わりに使われるくらいなら
私は一人でいたい。
私は2人のことを代わりじゃなくって、大切な友達って思ってたよ。
②1話
真夏の猛暑日
僕は今日亡くなった大好きな祖父と幼い頃 毎年行っていた家の近くの神社で行われるお祭りに来ている。
祖父が亡くなって以来行けていなかったお祭り。ところが中学の頃 出会った友達の尋と毎年来るようになった。
今日僕がこのお祭りに来ている理由も尋と遊ぶ約束をしているからだ。
尋とは中学の頃よく放課後も遊んでいたが、高校が違うためや、忙しいのもあり遊ぶ頻度は落ちていった。それでも毎年のお祭りは絶対に会う約束をしていた。
いつもの鳥居の前で。
神社は賑わい、普段人が居ないのが嘘のように思えた。
僕がお祭りの雰囲気に浸っていると、後ろの方から「仁」と僕の名前を呼ぶ声がした。
振り返ると紺色の甚平姿の尋が手を振っていた。
尋の姿を一見して今日に気合いを入れていることは一目瞭然だった。今日のお祭りが楽しみで、という考えではないかと予想した。
「甚平なんて新鮮でいいねお祭りっぽいよ」と僕が言うと
「いやぁ〜久しぶりに仁に会えるし、来年受験だから夏祭り楽しみたいじゃんだから気合い入れてきちゃってさ。」と。
大体予想は的中した。
淡い夕焼けに屋台の赤い光が映える時間帯
僕たちは久しぶりの再会で思い出話をしながら屋台の通りを歩いた。
鳥居からまっすぐ長い参道にそって多くの屋台が並んでいる。焼きそば屋、わたあめ屋、ラムネ屋、射的屋…
尋がラムネを片手に近くのベンチに腰掛けて「そう言えば」と近況報告に話題を変えた。
ラムネを1口飲み「仁は神様はいると思うか」と話し始めた。
僕は突然の哲学的な質問に驚き回答を悩んでいると尋がこう続けた。「俺の友達は将来の夢とか進路とか聞いてもてきとうに答えるやつで夏の進路相談もてきとうに済ませるようなやつだったのに、こないだ急に学校帰りに神様に会ったとか言い出して俺に熱く夢を語ってくれて今進学する為に勉強めっちゃしてるんだよ。夏バテとかなのかなって…あ、バテてはいないか?」
きっと覚悟ができたから今自分にできることをやろうって前に走れる。
僕も見習わなければ。きっかけはなんであれ行動に移さないどダメだ。
変われない。
「僕も変わらないと。」
自省していると。近くの焼きそば屋の方から大きな音がした。反射的に振り向くとそこには倒れる鉄板と少女があった。
周りが騒然とする。
僕は走って向かった。
体が勝手に走っていく。少女は火傷をしていた。辺りの状況から熱々の鉄板が落ちてきて火傷をしたと考えた。鉄板が重いことも他の怪我の可能性も考え、救護テントに少女を運び手当をした。幸い火傷以外の怪我はなかった。お礼をしたいと名前を聞かれたが、お気持ちだけで充分です。と言い残してその場を後にした。
その間 尋は屋台を元に直してくれていた。
いつも僕が突っ走って行くのを止めずに何も言わずに協力してくれる尋。
彼が、彼こそが頼れる人間であり、人のために行動できる人間だと思う。
僕とは違う。僕は優しい訳では無い。本当の人助けはできない人間。そう考え込む僕に
「仁はさ昔からすごく優しくて、頼りになってヒーローみたいだな。さっきも無心で助けてただろ?やっぱりじいさんのヒーローの念が仁に宿ってるんだな」と尋腕を組み感心したように言った。
「優しくないよ。ただ利用されて!面倒事を押し付けられるだけで…僕がもっと頼り甲斐のあるしっかりした人間できてたら。僕のせいなんだよ。」感情が押さえられずに声を荒げて、泣き出しそうになりながら話す僕に冷静で力強い声色で「仁は悪くない。」と言ってくれた。
僕は涙が止まらなかった。
ずっと悩んでいたこと。辛かった。
「変わらなくっていい。仁がやりたくない事はやらなくっていい。仁が助けたいと思った時に助ければいい。義務にしてひとりで背負い込まなくっていいんだよ。面倒事を押し付けてくる方が悪い!」
尋は力強く僕を励ましてくれた。
肯定してくれた。
もう空は深い青
打ち上げ花火と屋台の光
涙で光露と電色が混ざり僕の視界は万華鏡だった。
3話 ※今までのを見て頂けるとさらに…