真夏の猛暑日
僕は今日亡くなった大好きな祖父と幼い頃 毎年行っていた家の近くの神社で行われるお祭りに来ている。
祖父が亡くなって以来行けていなかったお祭り。ところが中学の頃 出会った友達の尋と毎年来るようになった。
今日僕がこのお祭りに来ている理由も尋と遊ぶ約束をしているからだ。
尋とは中学の頃よく放課後も遊んでいたが、高校が違うためや、忙しいのもあり遊ぶ頻度は落ちていった。それでも毎年のお祭りは絶対に会う約束をしていた。
いつもの鳥居の前で。
神社は賑わい、普段人が居ないのが嘘のように思えた。
僕がお祭りの雰囲気に浸っていると、後ろの方から「仁」と僕の名前を呼ぶ声がした。
振り返ると紺色の甚平姿の尋が手を振っていた。
尋の姿を一見して今日に気合いを入れていることは一目瞭然だった。今日のお祭りが楽しみで、という考えではないかと予想した。
「甚平なんて新鮮でいいねお祭りっぽいよ」と僕が言うと
「いやぁ〜久しぶりに仁に会えるし、来年受験だから夏祭り楽しみたいじゃんだから気合い入れてきちゃってさ。」と。
大体予想は的中した。
淡い夕焼けに屋台の赤い光が映える時間帯
僕たちは久しぶりの再会で思い出話をしながら屋台の通りを歩いた。
鳥居からまっすぐ長い参道にそって多くの屋台が並んでいる。焼きそば屋、わたあめ屋、ラムネ屋、射的屋…
尋がラムネを片手に近くのベンチに腰掛けて「そう言えば」と近況報告に話題を変えた。
ラムネを1口飲み「仁は神様はいると思うか」と話し始めた。
僕は突然の哲学的な質問に驚き回答を悩んでいると尋がこう続けた。「俺の友達は将来の夢とか進路とか聞いてもてきとうに答えるやつで夏の進路相談もてきとうに済ませるようなやつだったのに、こないだ急に学校帰りに神様に会ったとか言い出して俺に熱く夢を語ってくれて今進学する為に勉強めっちゃしてるんだよ。夏バテとかなのかなって…あ、バテてはいないか?」
きっと覚悟ができたから今自分にできることをやろうって前に走れる。
僕も見習わなければ。きっかけはなんであれ行動に移さないどダメだ。
変われない。
「僕も変わらないと。」
自省していると。近くの焼きそば屋の方から大きな音がした。反射的に振り向くとそこには倒れる鉄板と少女があった。
周りが騒然とする。
僕は走って向かった。
体が勝手に走っていく。少女は火傷をしていた。辺りの状況から熱々の鉄板が落ちてきて火傷をしたと考えた。鉄板が重いことも他の怪我の可能性も考え、救護テントに少女を運び手当をした。幸い火傷以外の怪我はなかった。お礼をしたいと名前を聞かれたが、お気持ちだけで充分です。と言い残してその場を後にした。
その間 尋は屋台を元に直してくれていた。
いつも僕が突っ走って行くのを止めずに何も言わずに協力してくれる尋。
彼が、彼こそが頼れる人間であり、人のために行動できる人間だと思う。
僕とは違う。僕は優しい訳では無い。本当の人助けはできない人間。そう考え込む僕に
「仁はさ昔からすごく優しくて、頼りになってヒーローみたいだな。さっきも無心で助けてただろ?やっぱりじいさんのヒーローの念が仁に宿ってるんだな」と尋腕を組み感心したように言った。
「優しくないよ。ただ利用されて!面倒事を押し付けられるだけで…僕がもっと頼り甲斐のあるしっかりした人間できてたら。僕のせいなんだよ。」感情が押さえられずに声を荒げて、泣き出しそうになりながら話す僕に冷静で力強い声色で「仁は悪くない。」と言ってくれた。
僕は涙が止まらなかった。
ずっと悩んでいたこと。辛かった。
「変わらなくっていい。仁がやりたくない事はやらなくっていい。仁が助けたいと思った時に助ければいい。義務にしてひとりで背負い込まなくっていいんだよ。面倒事を押し付けてくる方が悪い!」
尋は力強く僕を励ましてくれた。
肯定してくれた。
もう空は深い青
打ち上げ花火と屋台の光
涙で光露と電色が混ざり僕の視界は万華鏡だった。
3話 ※今までのを見て頂けるとさらに…
7/28/2023, 8:42:44 PM