夏休み中の進路相談。
てきとうに済ませようと試みたが、登校時にはミンミンゼミが鳴いていたのに進路相談が終わって下校する頃には日暮が鳴くまでに時間が進んでいた。
先生に何度も言われた。
「高校2年生である程度進路を決めておかないと…君の場合はやりたい事がないんだから尚更だよ。」と。
黙りの僕に必死に。
この夏には暑すぎるくらいの熱量で向き合ってくれた。
僕もその熱量と同じくらい覚悟を持てればよかった。
僕の「やりたい事」それは誰にも言えなかった。
笑われてしまうのが怖かったから。守りたかったから。だから言えなかった。
何度も、先生に話してしまおうかと思った事があったが、今までの馬鹿にされた事がフラッシュバックしてくる。
学校は電車で1駅と徒歩で15分。
周りは畑で山ばかりの田舎だ。
山の入口には勉学の神を祀る神社がある。
子どもの頃はよくこの神社で隠れんぼをしていたが、今では人っ子一人居ない。
夏の暑さにバテたのと、少し懐かしくなったのとで鳥居の横に腰掛けて休憩する事にした。
ふと神様なら未来が分かるのかと疑問に思ったが、すぐに考えるのをやめた。本当に存在するかどうか知りえないものに願うのは ばかばかしいと思ったからだ。自分の現実味の無さに自嘲した。
その時だった。沈みかけていた太陽が急に白く強い光を放ちながら僕の真上に登った。
何かが天使のはしごをゆっくりと降りてくるのが見えた。
僕は状況が飲み込めず、目を丸し動けずにいた。
"何か"は紛れもなく神様だった。
僕の目の前に神様は静かに舞い降りて、こう言った。
「理想が現実をつくっていく。未来を必死に追いかけぬ者に掴める理想は無い。」
そう言い残し、神様は帰っていった。
辺りはすっかり日が落ち
月が強く優しく光っていた。
2話
僕が幼い頃、亡くなった大好きな祖父がよく「誰かのためになる事をして生きなさい。」と話してくれた。それから僕は祖父のためにも「誰かのためになることをする」と考えて生きてきた。
だから僕は誰かが困っていれば助けたいと思った。
掃除の当番を急用があるからと、頼まれた時。
発表の原稿制作が上手くできないから 作って欲しいと頼まれた時。
いつも寝てしまうから授業のノートを書くよう頼まれた時。
僕は「誰かのためになるのなら」と、全て笑顔でOKした。そうすれば「ありがとう」「頼りになる」「やさしい」と言われる。
そうして僕は「誰かのためになった」と錯覚する。
ただ面倒事を押し付けられているだけなのに。
1話