一番星、弧を描いた月、青と紫と橙のグラデーション
どこまでも広がる空
終わりの見えない空
きっと、君はその中にいるんだよね
ニッコリと笑う君は、時に儚げで悲しそうな笑顔を見せていた
君が最後に見た景色は何ですか
私もその景色が見たいな
私を残して君は空になった
『空を見ると』
殺したいほど憎い人間がいる。
高校時代に俺のことを虐めていた奴だ。
物を隠す、机の落書き、空き教室に閉じ込められたり、濡れた汚い雑巾で口を塞がれたりと虐めというすべての行いをされてきた。
時には性的な嫌がらせを受けたこともあった。
見えない場所で見えないところにたくさんの傷を付けられた。お腹と背中は傷跡が残ったままでいる。
先生がいるところでは良い子ちゃんぶっている。
机の落書きを消そうとしたり、失くしていた物を「見つけたよ!」と一緒に探していたような雰囲気を作り出したりする。
どうして俺なのか。
他にも俺みたいに陰キャでヒョロヒョロしてる奴はいっぱいいる。
なのにどうして俺なのか。
何度も考えたが、分からないままだった。
ただ奴は「面白いから」としか言わなかった。
地獄の高校3年間を過ごした後、俺は就職した。
奴は難関の大学へと進学した。
優等生だったから、卒業式で答辞をしていた。
やっと離れられる、とそう思っていた。
7年間は安泰だった。
しかし、異動になったときに配属された所の上司が奴だった。
奴は言った。
「君は僕の玩具だ。これからも、ずっと」
ニッコリと高校時代と同じ微笑みで。
『続く苦しみ』
君に惹かれたのはその瞳が綺麗だったから。
ガラス玉のように綺麗でまん丸でキラキラしているその瞳。
ああ、でも、僕の瞳を見ないでくれ。
君に隠し事がバレてしまう気がするんだ。
その純粋な目は僕の心までを覗いてしまうような気がしたんだ。
汚い部分まで見られるようなそんな気が。
君は綺麗なガラスだ。
でも、ガラスは簡単に壊れてしまう。
一度割れたら全て割ってしまいたくなる。
だから丁寧に優しく扱わないといけない。
ガラスを覆っている枠も含めてだ。
君に見つめられると、嘘は言えない。
でも、これだけは言えないんだ。
「君の瞳は死んだお母さんにそっくりだ」
『重なる瞳』
目の前の人物は言った。
「人生に悔いはあるか」
悔い、か。
悔いなら一つだけならある。
「あるって言ったら生き返らせてくれるのか」
目の前の人物は淡々と言った。
「いいや、一度死んだ者を生き返らせる能力は私には無い」
「じゃあなんで聞くんだよ。この質問に何の意味がある?」
ふっ、と笑って
「意味など無い。ただの個人的な質問だ。人間はどんな後悔を持って死んだか興味があるだけだ。持ってない人間もたまにいるがな」
答えを聞いて、目の前の人物が人型を模したただの物体のように思えてきた。
「そーかよ」
「それでどんな悔いを持っているんだ?」
「…あるとは言ってない」
「そうか、ならば行け。そこの扉の向こうにお前の望むものがある」
示された扉のドアノブに手を掛ける。
「……中学生のとき仲が良かった奴がいじめられて、自分までいじめられたくなくていじめに加担していたんだ。自分を守るためで自分は悪くないと思ってた。でもある日そいつは自殺した。自殺したそいつの墓参りに一度も行かなかったことが俺の一つだけの悔いだ」
ガチャリとドアを開けた。
『死んだその後』
「そっか、由美ちゃん結婚するんだ。おめでとう」
「うん、ありがとう。って夏海反応薄くない?まあ昔からだけどさ」
「驚いてるよ。だって由美ちゃん学生時代、男のために自分が我慢するの嫌とか言ってたし」
「ああ、そんなこと言ってた時代もあったね」
「だから絶対に結婚しないと思ってた」
「流石に子供じゃないしさ、28にもなってそんなこと言ってられないし」
「……うん」
「夏海も早くいい人見つけて結婚しなよ」
「……うん。あ、ごめん急用思い出しちゃった。先帰るね。今日は話せて嬉しかった。……お幸せに」
「うん、こっちこそありがとう。楽しかった」
「それじゃあまたね」
お幸せに、か。なんであんなこと言っちゃったんだろう。本当は思ってないくせに。
でも、これでこの恋も諦められるかな。
はあ、苦しいなあ。
『エイプリルフールについた嘘』